『 魔痕 』 森村 誠一

◆ 魔痕  森村 誠一 ( 徳間文庫 ) \660

 評価…★★★☆☆

<作品紹介>

多忙、健康、清潔…現代人のさまざまな強迫観念が生み出す異形ミステリー。 ( 文庫裏表紙紹介文 より抜粋 )

綾部は50代になったばかりのごく普通の会社員だが、少し変わった習慣を持っていた。それは全くの健康体でありながら毎日大量の薬を服用することだ。どこも悪くないのに飲む薬であるから、そのほとんどは医師から処方された薬ではなく、薬局などで手軽に購入できる売薬、それもビタミン剤や栄養剤などの保健薬がほとんどだ。季節や体調、行動予定によって多少の変化はあるが、毎日十数種類の薬を服用する。そもそもは健康保持のために始めた保健薬の服用が、今では強迫観念に近いものになってきているのを自覚してはいるが止められないのだ。

しかし、そういう人間は意外に多いものらしく、インターネットで薬の情報交換などをしているうちに薬マニアのサークルのようなものができた。何事によらず、同好の士と話すのは楽しいものなのだ。ところが、ある日、そのサークルのメンバーが自殺したという報道を目にする。特に懇意にしていた相手でもあり、綾部のショックは大きかったが、その後、さらに衝撃的な事実が明らかになってくる。 ( 『 薬魔 』 )

島木は幸一は30代にしてバツ3だ。それだけを聞くと彼によほど問題があるかのようだが、そんなことは決してなく、島木自身は経済的にも人間的にもごくふつうのしっかりした男性だ。彼に悪いところがあるとしたら、女を見る目がなかったというところだろうか。別れた妻たちは三者三様の悪妻だったのだ。

一方、諸井尚美は28歳にしてバツ3だ。美人でキャリアウーマンの彼女の場合も、やはり男をを見る目がなかったとしか言えない顛末での度重なる離婚であった。ところが、そんなふたりが運命的に出会って結ばれたのだ。三度目の正直と言うが、これは四度目の正直だったらしく、ふたりは全てがぴったりだった。まもなく子供も産まれ、絵に描いたような幸せな家庭で、楽しく日々を過ごしていたふたりだったが、そこに思いがけない落とし穴が潜んでいた。( 『 婚魔 』 )

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文庫裏紹介文にあるように全てが強迫観念系ではなく、本人の強迫観念めいたものが事件に結びつくというものと、その行為や事物自体に潜む魔によって事件が起こるというふたつのパターンがあるように思います。あらすじはそれぞれのパターンから一作ずつ紹介してみました。

収録作は8作品で、それぞれが「 ~魔 」 という題名になっていますが、全てがふさわしいものとは言えない感じがします。悪い意味ではなく、その題名や表に出てきてる題材だけを見て先入観を持ってしまうとちょっともったいない気がするんですよね。そんなわけでここでも紹介はしません。また、章分けされてますが、それぞれの話や登場人物に関連性は全くなく、それぞれが独立した短編集です。


最近の強烈だったり新奇だったりする小説を読みなれている身としては、古老とも言える著者が現代について書いた作品を読んでも、さすがにお話としてはそう感心はしないのですが、この年齢とキャリア( 現在76歳・作家生活40年! )で、まだこれだけの作品が書けるってのは凄いことだなぁと、その点に感銘を受けましたね。

年配ベテラン作家がムリして現代のことを書いてトンチンカンになっていたりすることが多い中( しかし、編集者はあれ注意したり、そっと直したりできないのかね? )、 著者の描く現代のアイテム( パソコン、インターネット、携帯電話など ) は実に自然です。単行本は02年刊行だということを考えるとちょっと驚きですよ。私なんかその頃携帯もインターネット各種サービスもプライベートではほとんど使ってなかったですからねぇ。

まぁ、主人公が年配男性というのもあるけど、きっとご本人もちゃんと使いこなしておられるんだろうなぁと思ってたら、巻末に凄い立派な著者公式サイトの案内が!(@_@;)  いや、これは素晴らしいことですよ。やっぱり、第一線で活躍する方は違いますね。見習いたいものです。うーん、このサイトご本人が作ってたら凄いけど、さすがにそれはないだろうなぁf^_^;)

…と、作品内容に余り関わりのないことばかり言ってますが、それぞれのお話自体も充分に面白いです。新しくも古くもない、平凡でも新奇でもない、安定した面白さとでもいうのかな。あ、でも、これは私がクセのある濃い作品が好きだから、そう思うのであって、虚心に見ればそこそこ変わった濃い話もあるかも。そういえば、あらすじ紹介した 『 婚魔 』 なんかは私の感覚ではコメディに近いんですけど、一般的にはどう受け取られるのかしら?

( 6月末読了分 )