『遠海事件: 佐藤誠はなぜ首を切断したのか?』詠坂 雄二

遠海事件: 佐藤誠はなぜ首を切断したのか? (光文社文庫) 詠坂 雄二 本体価格¥600

評価…★★☆☆☆

<作品紹介>

佐藤誠。有能な書店員であったと共に、86件の殺人を自供した殺人鬼。その犯罪は、いつも完璧に計画的で、死体を含めた証拠隠滅も徹底していた。ただ一つの例外を除いては―。なぜ彼は遺体の首を切断するに至ったのか?

遠海市で起きた異常な事件の真相、そして伝説に彩られた佐藤誠の実像に緻密に迫る!気鋭の著者が挑発的に放つ驚異の傑作! ( 文庫裏表紙紹介文 )

うーん、正直いまいちでした。

「デビュー作が綾辻行人氏に激賞」とか有栖川有栖氏推薦」とかいう惹句で期待感が高まり過ぎたのかもしれないけど、作品の出来としてはこれはいまいちなんじゃないですかねぇ…。

最初の方は確かに面白いんですよ。自供しただけで10年ほどの間に86件の殺人を犯し、一切しっぽを掴まれずにいた完璧な大量連続殺人犯( 作中の定義によると連続はしてないそうだし、確かに作中の説明からするといわゆるシリアルキラーには該当しないように思われるが、これが一番わかりやすい表現だと思う…)という設定がまず魅力的なことこの上ないので、一体それはどんなヤツなの?っていう興味と期待でわくわくしておりますし、その殺人鬼である佐藤誠という人物もなかなかに興味深い感じだし、犯罪学者による犯罪実録ものという体裁も少々うざくもあるけど、まぁなかなか面白いし。

それで期待と興味を高まらせて、これからどうなるの、最後は一体どうなるの?とわくわく読み進めさせておいて、「え、これ?これで終わり?」って感じなんですよね(- -;)

しかも、最後のオチだけが肩透かしみたいなわけでもなく、終盤に近い「第6章自白」に入ったあたりから、あれ?って感じになってくるんですよ。

え、まさかそんなオチじゃないよね、まさかね…って思いながら読んで、結局「うわ、そんな感じ?」みたいに終わるという。その瞬間は正直「うわ、読んで損した」って思っちゃいました。

いや、それは、忙しい中ついふらふらと読み始めて、ラストが気になったために、もろもろを放置して読み続けてしまったが故の感想なんで、実際に読む価値がないとまでは言いませんけども。

評価すべき点は確かにありますし、世評も高いようですから、好みの問題なのかもしれません。解説では私が不満に思った点を逆に高く評価しているようですしね。

まぁ、本書の帯の小野不由美氏 「物語も仕掛けも世界観も。詠坂雄二は最高にcoolだ」”というのは当たっていなくはないと思います。

※以下 ネタバレ 有り※

個人的に一番の不満ポイントは結局、佐藤誠が何だったのか、何をしたのかが最後まで全くわからなかったところですね。

過去の犯罪の詳細はもちろん、何故彼が人を殺すのか、しかもそんなに大勢を平然と殺すのかも全くわからず( ある程度語られはするけれども、佐藤誠のモノローグ的な感じなので全貌は到底理解し得ないし、思考の一助にもなりにくい )、標題になっている佐藤誠唯一の失策とされているが、どうやら冤罪( といっても自ら自供してるんだけどね )であったらしい「遠海事件」の真相すら明らかにされないんですよ!

あと、それと並んで普通なら最も重要であるといってもおかしくない自供に至る経緯の詳細も全く語られないんです。

一応、民間の有能な探偵に嗅ぎつけられ、自供を促されてみたいな記述とその後にちょっとごちゃごちゃとはあるんですが、それも非常に不満。

佐藤誠人間性とこれだけ全てを説明不足な感じで終わらせているところからして、他人に見つかったから止めた的なさらっとした理由だけなら、それはそれで納得なんですが、どうもその探偵には何か物語があるみたいなんですね。

わざわざフルネームまで出して、さらに詠坂(作者ではなく作中の人物)がそいつを知っているみたいなシーンがあったりして。

多分前作の登場人物なのかなと思うんですが(前作が高校が舞台で探偵が出る話らしいし、佐藤も高校のときに何かあったみたいだし)、物語の肝になるような部分でそういうことするか?っていうね(-"-;)

あと作中で断言はされないけれども、遠海事件の真相はおそらく詠坂が推理したとおりなんだろうなと思われるんですが、その真相もちょっとつまんなくね?って感じです。

死因を隠すために首を切ったというのもそんなに新しい話でもないし、多分この事件の真犯人は佐藤じゃないんだろうなあと思い始めた時点で、まず浮かぶ発想だしね。

事件を連続的にして騒ぎを大きくするために後から娘の死体の方の首も切ったというのもありきたり。

まぁ、そこまでに持っていくのが上手いといえば上手いんですけど、何かなぁ…。

で、そうまでして、自分がやったことにしようとした、というか、真相を隠そうとした理由もどうもぴんと来ない。

それと本筋には関係ないんですが、作中の詠坂が育(いくる)に暴力を振るう場面がめちゃくちゃ不愉快( 万引きしたからって、女子中学生を建物の壁に力任せに何度もぶつけるか!?しかも顔から!! )で、その詠坂が後から、そこそこ重要な役で出てくるのも不愉快。

あと、「みすてりまにあ」と自称する時野が出てくる場面あれこれもうざい。推理を進めていく上で有効な部分もあるんだけど、「みすてりまにあ」は勘弁(-"-;)

そして育な。最後に佐藤誠に関する実録犯罪ものを書き続けてきた犯罪学者の正体が佐藤にまとわりつき、かつ獄中に入ってからも真実を知りたいと事件を調べてきた水谷育だったというのは想定内のことではあるんだが、獄中結婚してんじゃねーよっていうね。

まあ、便宜上なんだろうなっていうのは年表を見ればわかるんですよ。作中で、面会は基本的に親族か弁護人にしか許可されないから、これから大学入り直して弁護士になるから、最低7年は死なないで待っててくれって育の言葉が伝えられてて、死刑執行はそれより遥かに早く行われるから。その伝言があったのが平成26年7月、結婚は同年8月、死刑執行は翌年3月という流れで、結婚までの決意が早過ぎはしねぇかという気もするが。

この部分をを小技として評価すべきなのかもしれないけど、私には何となく育の佐藤への事件だけではない執着が感じられて厭なんですよね。

便宜上なら死刑終わったらすぐ籍抜けばいいだろうと思うんですが、まぁ、それをやっちゃったら、この最後のああっていうのがなくなるからできないんですけどねf^_^;)

それにそのままの方が、作品を書くために殺人鬼と獄中結婚までした女!ということで話題になっていいだろうしなぁ。

でも、そういうのも含めてやっぱり厭だなぁ。

心のきれいな人はこの部分に育の秘めた思いみたいなものを見て、プラス評価をなさるのかもしれませんが、見ているものは同じであっても私にはそれが厭なんですよねf^_^;)