『 銀齢の果て 』 筒井 康隆

銀齢の果て  筒井 康隆 ( 新潮文庫 ) \540  評価…★★★★☆       <あらすじ> 増大した老齢人口調節のため、ついに政府は70歳以上の国民に殺し合いさせる 「 老人相互処刑制度 ( シルバー・バトル )」 を開始した! 和菓子司の隠居、宇谷九一郎の住む宮脇町には、もと自衛官、プロレスラー、好色な神父など 「 強敵 」 が犇めいている。刃物と弾丸が飛び交い、命乞いと殺し合いの饗宴が続く。長生きは悪なのか? 恐怖と哄笑のうちに現代の 「 禁断の問い 」 を投げかける、老人文学の金字塔。 ( 文庫裏表紙紹介文 )
 ※今回かなり独り言的な内容ですm(_ _)m 私と同一傾向の本を読む人々のほとんどにとってそうではないかと思うのですが、筒井康隆は神なんですよね。 まあ、私の中では断筆宣言以降は絶対神→ 現人神→ ×#◎& ( 表現不能、というか自粛 )と降格の一途を辿ってはいるのですが、やはり神であらせられたことには変わりはないし、一時期のパワーは無くなったとしても、やはり極めて優れた能力を持っている特別な存在でございます。 しかし、自分も歳をとり筒井氏も歳をとると、こちらの意識と作品が変質することが避けられないんですよねぇ。相変わらず面白く素晴らしいし、当時とは違う良さもあるのですが、もはや神では有り得ないのですよね。そういう気持になってしまうのがとても嫌で、最近は氏の作品を読むのに勇気がいります(T_T) ※以下ネタバレ有り※ …と、前置きが長くなりましたが、本作は基本的にはツツイテイスト溢れたスラプスティック系作品で、様々な重い問題を秘めていますが、そういうのを気にせずにエンタメとして面白く読むことも可能です。かつてのこのテの作品に比べると登場人物が非常に人間的で、グロとかドタバタ要素も少なめな感じ。作中でご本人も 「 この作家の過去の作品ではこういう場合~~と決まっていたので 」 というようなことを書いているし、若干セルフパロディ的というか過去作品へのオマージュみたいな感じがあります。 しかし、ドライでぶっ壊れてないツツイ作品を読むのって凄く変な感じだ…。特に本作のラストは驚愕ですよ。シルバー・バトルで生き残った老人達が政府への逆襲として厚生労働省を襲うことを計画するのですが、主人公は土壇場でそれに参加するのをやめて帰宅し、家族に大歓声で迎えられるのです!  正直言って、最初は何だこれ!?と思いました。でも、これがリアルというものなのかなぁと思ったりもして。 それこそ過去作品であれば、強者ぞろいの上に怖いもの無しの老人達が厚生労働省に躍り込んで大虐殺を繰り広げるが、駆けつけた警官隊に射殺されて…みたいなラストだったでしょうね。でも、現実に老人になって書く作品はそうではないのだなぁと思うと色々と考えさせられます。 もちろん、ツツイのことですから、そういう風に読みとられることを承知の上で書いているのでしょうし、そんなに単純なものでもないのでしょうけど。 しかし、中年である私としては、つい先日、同級生である友人と長生きはしたいし、現実にその状況に直面したら絶対死にたくないと思うに決まっているけど、老人になってできることなど限られるわけだから今現在の楽しみを追求して野垂れ死にを選んだ方が良いのではないかという話をしたのを思い出さずにはおられませんでしたね。うーむ…。