『 梅一枝 ― 新編剣豪小説集 』 柴田 錬三郎

◆ 梅一枝―新編剣豪小説集  柴田 錬三郎 ( 集英社文庫 ) \650  評価…★★★☆☆ <作品紹介> 「 刀鋒を以って人を斬る者は敗れ、刀盤を以ってする者が勝つ 」、柳生宗厳の言葉を密かにわが物とし、意外な腕を見せた『 斑三平 』。 石工が石を割るのを見て、卜伝流の極意を編み出した塚原卜伝を描く 『 一の太刀 』など、剣技を極め、生命を燃え立たせた有名無名の男たちの心意気を鮮やかに綴る名短篇九作。集英社文庫オリジナル編集。 ( 文庫裏表紙紹介文 )
何だかんだ言って、やっぱり面白いんですよねー、柴錬作品。 敬愛する森茉莉さんが相当に嫌っておられたため、私も印象が悪くてずっと読まず嫌いしていたのですが、やはり読まねば評価できないと思って読んだ代表作 『 眠狂四郎シリーズ 』 が残念ながら面白くてね^^; 確かに女性の目から見ると、池波正太郎藤沢周平らの大御所に比べると若干人間の質が下る感はあるんですよね。登場人物にしても、そこに見え隠れする作者自身にしても。ただ、そういう時代だったという気もするし、時代小説という設定上からも、それはそれでいいのかなという気もするのです。今どきの、表面上はフェミニストっぽいけど実際は女バカにしてんじゃないの?みたいな小説より、むしろ好感がもてるかも。あと武士たちが大らかで単純明快な感じもいいです。人生簡単な方がいいなとか。大した能力のないのに選択肢の多い人生って、それはそれで大変ですよね。あ、眠狂四郎は暗く屈折してるけど行動パターンは単純と言えば単純(笑) …と、作品に関係のないようなことばかり書いてますが、実際作品自体にはさほどコメントするほどのことはなかったりするわけですよ^^; オリジナル編集であって文庫初収録ではなかったので、既読の作品もいくつかあったし。でも、この文庫は物凄く親切な作りで目次に各作品のあらすじが書いてありますので、ダブって買うのが嫌な方はそれでチェックするのをオススメします。 ちなみに、『 狼眼流左近 』、『 邪法剣 』 は男女ともケダモノな感じのお話で、『 花の剣法 』、『 梅一枝 』 は対照的に凛然とした男女のお話 ( と言っても、こちらは直接の交流はないのですが )、『 斑三平 』、『 生命の糧 』 基本は朴訥でお似合いの男女なのだけど悲しい結末になってしまうお話。 …と、剣豪小説集なのに変な切り口で分類する私^^;  『 一の太刀 』 と 『 柳生五郎右衛門 』 はよく出来た剣豪小説です。有名過ぎるほど有名な塚原卜伝を描いた前者に対して、後者は柳生一族ではマイナーな存在である石舟斎の四男・五郎右衛門を描いた作品です。どちらにもそれぞれの面白さがありますが、私は寡聞にして五郎右衛門の最期のエピソードを知らなかったので、それが読めたのは収穫でした。 『 一の太刀 』 は剣技とは余り関わりのない仇討ち夫婦のエピソードが興味深いのですが、普通であれば、天晴れな心意気で哀れな女心と評されるであろう妻の心事を批判的に書いているのが不審。女性不信というのは変じゃないかなぁ。仇に抱かれて、嫌々ながらのはずなのに愉悦の様子であったというような描写があればまだしもだけど、なまめいた風情だったくらいで責められてもなぁ。 目的達成のためにそういう風情が求められているわけですから。 ( 8月末日読了 )