『 死の印 』 ( 2007・仏)

◆ サイン・オブ・デス ( 2007年・フランス )

 監督:レジス・ヴァルニエ

 出演:ジョゼ・ガルシア、マリー・ジラン、ミシェル・セロー、オリヴィエ・グルメ

評価…★★★☆☆

<あらすじ>

それは当初、ごく些細な事件だと思われた。その始まりは落書きからだったからだ。ある日、パリ市警に自宅アパートのドアに落書きがされていると言って女性が駆け込んできたのだ。数字の4を裏返したものと思われる意味不明なマークが知らない間に自宅のドアに書かれているというのは当事者としては確かに不気味だし、不安ではあるが、警察としては取るに足らないイタズラとしか思えない。軽くあしらって済ませようとしたが、その落書きが一件だけではなく、街中のアパートに及んでいることが判明し、状況は変わってくる。その独特のカンで数々の事件を解決してきた名物捜査官とも言うべき存在のアダムズベルグ警視は、この事件に感じるものがあり、独自に捜査を始める。

すると、そのマークは中世に大流行したペスト除けの呪文であることがわかり、落書きもされている家とされていない家があることがわかった。そして、広場で個人や企業の広告文を読み上げるという仕事をしている男のところに、落書きの発生と同時に奇妙な文章が寄せられていることがわかった。不気味な内容が描かれた詩の一節のようなその文章を専門家に見てもらうと、それはペストを予言するものであるらしい。この落書き犯はペストの襲来を予言し人心を騒がせようとしているのか?それとも他に目的があるのか?

そこに、街中で変死体が発見されたとの報が入る。その死体は全裸で、全身にペスト=黒死病を思わせる黒い斑点が浮き出ていた。そして、調べてみると被害者の家のドアには例のマークは描かれていなかった。やはり、これはペストなのか?そうするうちにまた次の被害者が同様の姿で発見され、ペスト発生の噂が広まりパリ市中は軽いパニック状態となる。

警察では例の落書きがされてなかった家をマークし、ペストの発生源を突き止めるべく動くが、被害者の死因はいずれも毒殺でペスト菌は検出されず、体の斑点も木炭で書いたものだったということが分析の結果判明した。

しかし、犯人がペストにこだわっていることは疑いない。犯人とペストの関わりは?そして被害者たちはどのように選ばれたのか?捜査を進めるうちにアダムズベルグは一連の事件の共通点に気付き、犯人へと肉薄するが、そこには更なる驚くべき事実が隠されていた。


題名や予告編から予想してたのとは全く違う映画でしたね。「 死の印 」、 「 ペスト 」 、「 謎の連続殺人犯 」 という要素だけ聞くと、ホラーかスリラー+病気パニックものって感じなんですが、全然そんな感じではなく、割とよくできたミステリーでした。連続殺人犯や超自然現象が好きな私としては、ちょっと期待を裏切られた感がありましたが、それでも結構面白く見られたし、私の苦手なフランス映画だということも考慮すると、なかなかの佳作と言ってよいのではないでしょうか。

※以下ネタバレ有り※

一応オチをざっと説明すると、ペストの発生を予告し、ペスト菌を用いて複数の人を殺そうとした人は確かに存在しているのですね。そして、アダムズベルグの推理した、その犯人がかつてペストが発生した際の生き残りだったということも、被害者たちの共通点はある一時期にとある企業の仕事がらみでアフリカにいたということで、そこで起こった何かが犯人の動機であろうということも正解。

実は被害者連中は全員、アフリカで企業に指示された本来の仕事をする傍ら麻薬の密輸に手を染めてしまっており、不意に現地視察に訪れた企業の社長にそれがバレて、隠蔽のために社長を殺害したという過去をもっていたのでした。そして、一連の事件の犯人は、そのとき一部始終を目撃してしまった社長の息子 ( 当時はまだ子供 )と彼を育てた祖母 ( つまり社長の母 )だったのです。

が、しかし、彼らは実は殺人犯ではなかったのですね。確かに、ペスト菌を持ったノミを繁殖させて、それを被害者宅に入れて殺そうとはしてたのですが、実際に被害者を殺しているのは毒薬です。つまり、彼らの計画を利用しようとしていた人物がいたわけです。そして、その人物の目的は被害者たちを殺すことではなく、犯人たちを陥れること。というか、正確には彼らが確実に殺人の罪に問われるようにすること、ですね。本人たちは一応そのつもりで犯行には及んでいたわけですから。まぁ、とにかく真犯人は彼らを早急かつ確実に社会的に抹殺したかったわけです。そして、その目的は彼らの財産。

…ということで、殺人と死体をペスト風に偽装した真犯人は社長の息子の異母姉だったのでした。このお姉さん役のコが実にキュートなこともあって、この展開は相当に意外でしたね。そんな理由で、この愛らしい娘さんがあんなことをするのか、という驚きもあり。犯人とバレてからの行動もなかなかのもので、特にミニスカでの形振り構わぬ逃走ぶりが実によかったです^^; 

でも、個人的には最初の呪術とか復讐とか疫病といったダークな要素に、謎の連続殺人、そして不可解な登場人物たち…という暗く謎めいた雰囲気の方がすきだったので、単なる人間ドラマになってからは面白いけどつまんなかったですね。あれだけのことをしてのけた犯人が可憐な女のコ( 成人かもしれないけど少女っぽい。二十歳前後かな? )だというのはいいんだけど、動機が余りに実利的でしらけちゃうんだよねぇ。それに財産目当てなら、もう少しうまく立ち回ればよかったんじゃないかなぁとか思っちゃう。まぁ、妾腹の子だった故の恨みとかもあったみたいではあるけど。少し精神を病んでいたのかなぁ…。

うーん、やっぱり最初に風呂敷広げすぎな感じはあるなぁ。あれだけペストがらみで大騒ぎしといて、いやぁ、実はアレは何でもなかったですわってのはあんまりだよねぇ。あと登場人物が多過ぎる。観客をミスリードさせるためにしても、ちょっとどうかと思うわ。まぁ、みなさんそれぞれに魅力的ではあるけど。

そして、犯人が明らかになる以前の社長殺しの話は結構凄い内容で、そりゃ息子が復讐するのも無理はないと思うのですが、戦時下とかでもないのに普通の、比較的知的レベルも高い人々が、揃ってあんなに簡単に非道かつ卑劣になれるものなのですかねぇ?そこがちょっと説得力なくてペストの魅力にはやっぱり負けちゃうかなぁと。

あと警視と恋人の関係のもつれみたいなのは、ストーリーに微妙に関係しないでもないので、その設定自体はあってもいいのかなとは思うけど、欧州映画特有( 偏見 )の幻想的な感じの回想シーンみたいなのが多いのが私にはちょっとウザかったです。恋人が何故かアジア系だったのも妙に気になった理由のひとつですね。別に意味はないんだろうけど、フランス映画だとアジア系の人がそういう役で出ていること自体が何だかおさまりが悪い感じなんですよね。