『 九月が永遠に続けば 』 沼田 まほかる

九月が永遠に続けば  沼田 まほかる (新潮文庫) ¥660

 評価…★★★★☆

<あらすじ>

41歳の佐知子は離婚して8年目。高3の息子・文彦と二人暮らしだ。夫との離婚には込み入った経緯があり、佐知子自身はそれを未だに消化しきれずにいるが、文彦はそんな佐知子を支えてくれる存在だった。

その文彦が何の前触れもなく失踪した。ある夜、佐知子に頼まれてゴミを出しに行き、そのまま戻ってこなかったのだ。17歳の男の子が数日帰ってこないくらいで…と周囲はまともに取り合ってくれないが、佐知子は文彦が失踪したその夜に彼の部屋や持ち物を探って、息子の知らなかった一面を知り不安を募らせていた。

そして、文彦が失踪した翌日に、佐知子の歳の離れた恋人が事故死した。それもホームから落ちるという形で。とても偶然とは思えない。しかし、事情を他人に打ち明けることもできない。佐知子は、同じマンションに住む文彦のガールフレンドのナズナとその父親の助けを借り、とにかく、何かの手がかりを探そうとするが、そこで得た情報は彼女をさらに不安に陥れるようなものばかりだった。

やがて、文彦の周囲に元夫の後妻、つまり、佐知子が夫と別れる原因となった女の連れ子の影も散らつき始める。その娘。冬子を追及するうちに、元夫と後妻の姿も見え隠れし始める。実は、彼らが結ばれるに至ったのには忌まわしい過去があるのだ。その記憶は常に佐知子を苦しめてきたが、この過去の悪夢が現在の悪夢にも関わっているのか? 果たして文彦はどこに?


読んでる時は物凄く面白くて巻置く能ずって感じだったのですが、読み終わった後は 「 んんん~? 」って感じの作品でした。大変面白くてよく出来ているし文章も良いのですが、設定とかがちょっとどうかなぁと。やり過ぎというか詰め込みすぎな感じがするし、説明不足だったりムリがあり過ぎたり。でも、読んでる最中にはそういうのが全然気にならずに、むしろ面白くて読んでしまえるので、これは凄い作品なのかもしれません。日常的な生活や心情の描写がリアルだからなのかしら?

ちなみに、ホラーサスペンス大賞受賞作ですが、ホラー要素はありません。

まぁ、ホラーと言ってもいいくらい、ドロドロしておぞましい現実のあれこれが詰め込まれてはいますが(-_-;)

※以下ネタバレ有り※

まぁ、とにかく亜沙実さんの設定にムリがあり過ぎる。こういう人って確かにいないではないらしいのですが、これを全ての原因にしてしまうのはどうかと思います。そして、何よりも個人的にこの設定がとても不愉快です。余りに不愉快でここに詳細を書きたくないくらい。つい最近、他の作品でも似た設定のものを読んだのですが、その存在そのものが犯罪を誘発するという定義をされるのはおかしい。被害者にどんな凄まじい魅力や吸引力があろうとも、責任も罪も全ては加害者にあります。

そして、文彦くんの相手が亜沙実さんだというのは容易に想定できましたが、この結びつきもちょっとどうかと。惹かれ合うのはわからないではないけど、納得できないというか。

あと、舞台が狭い( ほとんど佐知子の生活圏内での出来事なのです )割には登場人物多過ぎ。しかも、みんな病んでるし、救われない人も多いし。特に亜沙実さんのお兄さんは可哀想過ぎませんか???何の罪もないし、凄く頑張ってるのに。亜沙実さんも、他所ん家の、それもややこしい関係の息子を癒してないで、お兄さん癒してやれよ…( いや、諸事情からムリなのはわかってるんですけど、つい…(T_T))

その多い登場人物が絡み合いながら、話は二転三転していくのですが、大半はまぁ予想できる感じですね。そこに至るまでも至ってからも読ませてはくれるけど。唯一、驚いたのは犀田を突き落としたのがカンザキミチコだったということですね。動機を聞けば納得ですけど。うーん、道具としての死を迎えるとは犀田、哀れなり。冬子に殺されるんなら本望だっただろうけど、よりによって冴えないカンザキミチコじゃなぁ。

そうそう、先に「 みんな病んでる 」と言いましたが、佐知子自身もかなり病んでるんですよね。ふつうの人のふりをしてるけど、ふつうの41歳の女は後妻の連れ子のボーイフレンドらしいからという動機で、自分の通う自動車教習所の25歳の教官を誘惑して、その後も関係を継続したりしないぞ。まぁ、佐知子の場合は元々の性質より、亜沙実さんがらみのあれこれで受けた傷によるものが大きいんだろうけど。

あと、個人的に関西弁の服部オヤジが非常にうざかったです。大っ嫌いなタイプなんですよね(-"-;) まぁ、私の好悪はともかく、物語の進行上では必要だし、役にも立ってるんだけど、何かと過剰過ぎるんです。いい人なんですが最後まで好感が持てず、ラストで佐知子がこいつを受け入れる心情になった時には、「おい、思い止まれ!一時の感情に流されちゃダメだぞ!」と言いたくなりました。

こうして、書いてくると、登場人物が鬼畜小説なみに感情移入できない人ばかりなのに改めてちょっと驚きました(@_@;) でも、読んでる時にはそんなに違和感は感じないんですよね。うーむ。

(2月下旬読了分)