『ピギー・スニードを救う話』 ジョン・アーヴィング

◆ ピギー・スニードを救う話  ジョン・アーヴィング小川高義 訳 (新潮文庫) ¥580  評価…★★★★☆ <作品紹介> 私が作家になったのは、祖母が礼儀正しい人であり、さらには、その祖母がていねいに接していた頭の弱いゴミ収集人のせいだったように思う。その男の名はピギー・スニード。 「 ピギー(豚ちゃん) 」という名前そのままに、彼は豚のような風貌をして豚のように振舞った。そして、豚で生計を立て、豚と暮らし、豚と共に死んでいった。この彼の存在が初めての改訂作業=創作のきっかけとなったのだとアーヴィングは語る( 表題作 )。 その他、 『 インテリア空間 』、 『 もうすぐアイオワ 』、 『 疲れた王国 』、 『 ブレンバーの激論 』、 『 ひとの夢 』、 『 ペンション・グリルパルツァー 』、 『 小説の王様 』 など、随筆と短編合わせて8篇を収録。
ジョン・アーヴィングは、偏った趣味を持つ私が好む数少ないジャンル外の海外現代作家のひとりです。最初の出会いは 『 ガープの世界 』 だったか 『 熊を放つ 』 だったか…。いずれにしても、今よりもずっと心が柔らかかった頃に何気なく手にとって、その圧倒的な物語世界にたちまち虜になってしまったのでした。 文庫だとほぼ確実に上下巻になる長編中心の作家であることと、その物語世界の不思議な暖かさと優しさがちょっと辛い気がして、最近は敬して遠ざける傾向にあったのですが、久しぶりに読んだアーヴィングはやっぱり良かったです。こうだからいいとかここがいいとか強くは言えないんだけど、やっぱりいいんですよねぇ。 ごくふつうの( いや、登場人物とか設定とかかなり奇妙ではあるんだけど… )現実の世界を書いているのに不思議なくらい独特の世界が出来上がる独特の文体。セックスがらみの話など下世話で悪趣味な感じの話をふんだんに描いているのに何故か全然下品じゃなくて、浮世離れしているようで妙にリアル。昔の村上春樹に通じるものがあります。( そういえば、当時関係性が取り沙汰されていたような気がしないでもない。村上春樹レイモンド・カーヴァーを翻訳したりしてたし。アーヴィングとカーヴァーは同系統だし。って、凄い遠い記憶だから間違ってるかもだけど… ) 表題作である『 ピギー・スニードを救う話 』は、アーヴィングの創作の秘密を描いた随筆ということになっています。それがどこまで真実かはわかりませんが、ピギーの話を読んできて辿り着く  「 作家の仕事は、ピギー・スニードに火をつけて、それから救おうとすることだ。何度も何度も。いつまでも 」 という結びの文章は胸に迫ります。これが真実だったらピギーもずいぶんと救われることでしょう。 私は読むのは大好きですが創作の才は皆無なので、作家さんの創作秘話の類を読んだり聞いたりしても、正直なところ余りピンとはこないのですが、これはわかるような気がします。創作ではない文章を書くことの動機にも近いものがあるように思うんですよね。 その他の短編はどれもそれぞれ面白いですが、短くてもやっぱりアーヴィングって感じで、意外な作品とかがないのがちょっと残念かな。 ちなみに、『 ペンション・グリルパルツァー 』 は 『 ガープの世界 』 の主人公・ガープの作品でもあります( 作中作なのです^^ )。これを読んで面白いと思われた方にはぜひ 『 ガープの世界 』 も読んでみて欲しいですね。