『さくらインテリーズ 』 戸梶 圭太

◆ さくらインテリーズ  戸梶 圭太  (ハヤカワ文庫JA)  ¥798

 評価…★★★★☆

<作品紹介>

さくら児童公園に住み着いたホームレスのうち、元中学教師の高木、元図書館司書の鳥越、元考古学者の藤守、元一流企業社員の安藤、元公務員の山根の五人は、世代や学歴、知的レベルなどが似通っているせいか一応チームとして結構うまくやっていた。高木の命名した 「 さくらインテリーズ 」 というチーム名も皆に好評で、先行きに色々不安はあるがホームレスとしては安定した秩序のある生活を送っていた。

そんなある日、彼らの縄張りに不潔で無神経なデブ男が乱入してきた。5人は秩序を守るためコイツの排除に乗り出すが、それをきっかけに事態は急展開してしまい、彼らの人生は二転三転することとなる。波瀾万丈のホームレス小説!


久々に凄いトカジっぽい小説です。毒はちょっと少ないかなって気がするけど、とにかく面白くて一気に読めるし、裏にある問題提起みたいのを読み取りたければ読み取ってもいいし、読み取らなくてもいいって感じで、ユルくていい感じ^^;

私はノンポリ(死語)なので、政治経済や社会情勢に関わるようなことに余り発言する気はない…というか、自分の知識量でそんな重い問題について発言することはできないと思って逃げているんですが、まぁ思うところはあるので、こういう風に考えさせてくれるのは悪くない、というか必要ですね。たまには考えないとバカが進行してしまう(>_<)

※以下ネタバレ有り※

※ 不適切な発言、不快な描写等もある気がします。ご了承下さいm(_ _)m ※

で、相変わらず、ほんとに荒唐無稽で、登場人物は同情の余地がないくらい低俗でバカなんですが、不思議なくらい面白いです。トカジ作品の登場人物は現実に存在してたら絶対仲良くなれないと思うし、読んでてもあんまり共感はできないんだけど、不思議と感情移入してしまうんですよねぇ。この鍵はやっぱり低俗でバカってところにあるのかなと思います。これを読んでる皆さんがどうかは知らないですけど、私はやっぱり本質的には低俗なバカなんだと思うんですよね。たまに綺麗事を口走ったりはするけど、傍から見ると下らない自分の欲求に支配されてると思うの。そういう自分を嫌悪しつつも、その欲求(全然大したことじゃないですが…)をオープンにしてみたいと思ったりもする。結局のところ、こういう小市民がトカジ作品の支持者なのかもしれませんねぇ。

ストーリー自体に言及すると、いつにも増して、この設定、この展開、余りにもムリがあるだろ?ってか無茶苦茶だよってのだらけなのですが、読んでる時は勢いに押し切られてしまいます。この力技はやっぱり素晴らしい。 まぁ、本作は一応SF誌に連載されていたらしいから(なので、ジャンル分けも悩みましたが一応SFにしてます)、恐るべき変貌を遂げた近未来の東京新宿区の章はそれらしくて良いとも言えますね^^;

進行の極まった格差社会と、個性的かつ狂信的な都知事と区長による条例制定により、ホームレスの死体は路上のあちこちに放置されているのにゴミはひとつも落ちてないという奇妙な街になった新宿の様はなかなか面白いです。ゴミの類が完全に管理されるようになり、ホームレスが食べ物や金銭を得る手段が完全に断たれ、窮した彼らは唯一簡単に手に入り、かつ手にしても罰せられないたんぱく質に手を伸ばし始める。それは路上に放置されたホームレスの死体だ。…って話になってくると若干ホラーっぽいですが、決してゾンビとか食人族的ではなく、そう簡単には人肉食に慣れることができず、生では絶対に食べないし食べられないなど、なかなかリアルです。

個人的にはゴミのポイ捨てとか歩行中の喫煙とかその他迷惑行為などは厳しく取り締まって欲しいので、その点ではこの知事と区長は素晴らしいと思うんですけどね^^;

ちなみに作中ではこの知事は2008年に就任することになってます。近未来っていうか今年じゃん(@_@;)

でも、本作はやっぱりちょっとこなれてないような気がしないではないですね。凄く色んな人物や設定が登場するのに大半が放りっ放しなんだもん。 『 志乃木が原プリゾナーズ 』 なんか、もうマジどんだけぇ?って感じですよ。金と力はあるらしいが宇宙人系電波な人物とその謎の部下たちと彼らによる宇宙人遺跡発掘事業とか、そこに自分たちの事情で割り込んでくる詳細不明だがアンダーグラウンドな感じだけは濃厚な朋子と正一夫婦とか面白すぎる設定だらけ。でも、使い捨て。潔いとも言えますけど、こちらはちょっと欲求不満になりますよね。

あと、個人的には高木さんが可哀想で仕方がない(T_T) 淫行教師と言っても教え子には手を出してないんだし、いいヤツだよ高木 ( 手を出していないという話だけでなく、他の局面での言動とか見てても結構いいヤツなんです^^; )。

私は買春は罪じゃないと思ってるんですよね。別に擁護や推奨はしないけど、売ってるんだから買ってもいいじゃん…と思うわけです。買うことによって相手が救われる場合もあるわけだしさ。売ってるのがあからさまに幼児や小児だったりすると判断に迷うところですが、本人が本当にその行為を理解して納得している売春であればそれはいいと思いますけどね(でも、幼児は身体的な問題があるから本番はさすがに規制すべきだな…)。ちなみにこの場合(年少者による売春)の罪は保護者にあたる人が負うべきだと思います。で、買う側はいずれの場合であっても別にいいんじゃね? 趣味嗜好とか性癖は常識では解決できない部分が多いんだから、襲ったりセクハラしたりせずに一応合意の下で対価を払って関係を結ぶだけ評価されてもいいと思うんですけどね。

…と、高木さんが可哀想なのは別に淫行の話だけではなかったのですが、つい話がこちらにいってしまいました。運が悪いのに生命力が強すぎるのと、多分、声としゃべり方に特徴があるのが彼の不幸なのだろうなぁ(;_;)

しかし、麒麟・田村くんの影響でホームレス流行りの昨今、便乗商法と思われるのは嫌だなぁと思ったりもします( 帯の惹句が 「 ホームレス中学教師、高木(49)ダンボールは食べない 」 だし。どうでもいいけど現役中学教師じゃないんだから、この惹句は不適切だよな。現役中学教師でホームレスだったら全然違う話になっちゃうよ )が、まぁ、トカジはトカジだからいいかしらね。