『吉原炎上』 (1987・日)

吉原炎上 (1987年・日本)

 監督:五社 英雄/出演:名取 裕子、かたせ 梨乃、根津甚八 他

 評価…★★★★☆

<あらすじ>

時は明治も終わりに近づく頃。東京には江戸時代から続く吉原遊郭がまだ栄華を誇っていた。ここに来る女たちのほとんどは家の借金のカタで、岡山から来た18歳の久乃も例外ではなかった。しかし、田舎から出てきた上に比較的良家に育った彼女には吉原の何たるかがはっきりとはわかっておらず、言われるがままに動いていた。そして、若汐という名を貰って、いよいよ初見世という時に、やっと状況が身に沁みた久乃は発作的に廓を飛び出してしまう。

すぐに追い詰められ、川に飛び込んだ彼女を、娼妓解放運動をしている救世軍の青年が助けようとするが、かなわず連れ戻された久乃は指導係の九重花魁に厳しく怒られ、直々にその体を使って廓での性技を教え込まれる。当然未経験の身で、しかも気持ちは抵抗しているにも関わらず、やがて行為に没入していく若汐に九重は遊女としての天性の素質を感じる。そして、久乃として廓に来た時から彼女に愛情のようなものを抱いていた九重は、これを機に廓を去る。

そして、若汐がすっかり廓にも慣れた頃、古島財閥の新当主から指名が入る。突然のことに戸惑いながらお座敷に出た若汐の前に現れたのは、あの時の救世軍の青年だった。あの時の久乃を救えなかった罪滅ぼしに若汐に束の間の安らぎを与えようという心積もりらしく、古島はしきりに通いつめて金を遣ってはくれるが、決して若汐を抱こうとはしないばかりか床を共にしようともしなかった。

そんな後ろ盾に加えて、様々な経験を積んで強く美しくなっていった若汐は、ついにはお職の座につくこととなる。そして、花魁名跡「 紫 」を継ぐことになるのだが、その紫の部屋に嘘と病により悲しい転落を遂げた小花花魁が暴れこんでくる。そして、「ここはあたしの部屋だよ!」と叫んで、積み上げられた紫の豪華な夜具を切り裂いた後、延々と独りで悶え狂い、その凄惨な痴態の果てに絶命する。紫はかつては敬愛していた姐さんのそんな姿を見て、どうすることもできず泣くばかりだった。

それでも、紫の名に恥じない花魁として頑張っていた彼女に、ある日、古島が唐突な申し出をする。財閥を追われた代わりにもらった2千円(現在で言えば約2千万円程度か?)を全てやるから好きなように使えというのだ。そして、古島はできれば彼女と夫婦になりたいと告白する。しかし、紫はその金で花魁道中をしたいと言う。それは、花魁としての彼女を求めようとしなかった古島に対する意地だった。古島はそれを快く承諾し、何処へかと立ち去る。そして、ふたりはそれぞれの道を歩き始めるが…。


有名過ぎるほど有名なこの作品、実はちゃんと見たことなかったんですよね。年少の頃にテレビ用に編集されたものを見たっきりで。で、今回DVDで鑑賞して、オトナになってから見てよかったかなと思いました。年若の時に見ると俳優陣や画面の豪華さやショッキングなシーンに圧倒されちゃいそうですもんね。まぁ、それはそれで良い体験ではあるでしょうが。

かの有名な峰子の「噛んでぇぇぇぇ~」も見られたし(笑)、まぁ、その他にも色々と面白いことは面白かったのですが、吉原を舞台にした映画としては余り感心しませんでした。しょせんは男目線で作った絵空事って感じなんですよねぇ。吉原って、遊女って、リアルに描くとしたらあんなもんじゃないでしょ。女の意地や悲しさや怖さを描いている体で、エロティックな部分やショッキングな部分を撮りたかっただけなんじゃないのって気がします。色々と不自然だし、嘘っぽ過ぎるんですよね。男女の仲も私には余りリアルに受け取れませんでしたし。まぁ、古島の若さんみたいな変な意地を張る人はあの時代には結構いたみたいですけども。

あと、私はこの映画にエロスは感じませんでしたねぇ。一般的には随分と評価されてるようですが、単に裸が出てるだけじゃないの?って感じでしたね。基本的には洋モノより和モノの方が断然エロいと思ってるんですが、ただ乳ほり出してるだけでエロいわけではないのですよ。単にカラダを見るだけなら欧米人の方がキレイで楽しいですわ。繰り返しますが、西川峰子の「ここ噛んでぇぇぇぇ~」のシーンは凄いです。鬼気迫る演技で、確かに一見の価値はあります。でも、あれって必要?類似したシーンは必要かもしれないけど、あんなにしなくていいんじゃない?度合いも時間も。あれじゃ結核というより脳梅だよな。

初見世の時に逃げ出した若汐に実地指導をする九重ってのも、男性が見たら凄くエロいのかもしんないけど、私に言わせれば全然リアリティないっす。まず、何よりも名取裕子演じる若汐に全く魅力がないんだよね。性的魅力もないし、生娘(という設定だよな?)としての魅力もないし、単なる美の魅力もない。そんな若汐に何故九重が惹かれるかわかんないんだもん。九重自身は結構魅力的ですけどね。

で、火事になった時に逃げずにヤリ続けてるふたり(古島とお春)。先も見えないし、絶頂で死にたかったということなのかもしれませんが、理由や心情はどうあれ、あれはムリだろう。足元で火がついた時点で「熱!」って飛び起きるよ。幻想的で暗示的で美しくはあるがリアリティのかけらもない。

そもそも、私は久乃に全然感情移入できないんだよね。何あの自分勝手な女。これは名取裕子が全然きれいじゃない(皆さんはきれいに見えるのでしょうか??? 私は、普段も着飾ってても全然良く見えなかったですが…)上に色気のかけらもないせいもあるかもしれないけど。しかし、日本人の女って眉ないとひどいね(T_T) 私は豪華女優陣がほとんど見分けがつきませんでしたよ。

あ、備忘のために豪華キャストをメモしておこう。現在の目で見ると脇役に至るまで凄いメンツなんですよね。あと、あらすじや上の文中に書ききれなかった小ネタの感想も書きたいし。

若汐=名取裕子、 古島=根津甚八、 小花=西川峰子…は本文中にある通りですが、以下は私の重要度で適当に。調べて書いてないので、事実誤認等あったらごめんなさいm(_ _)m

菊川=かたせ梨乃

(若汐の朋輩で気のいい女だが花魁としてはいまひとつで、品川へ住み替えとなる。しかし、そこで堅気の職人に身請けされて幸せな家庭を築き皆にも羨まれていたが、すぐに浮気されて家を飛び出し、更に格下の女郎に身を落とすはめに。それからは、さすがに荒れた感じになってはいくが人の良さは変わらず、夫の浮気相手に無心されると毒づきながらも金を渡してしまう。最後の火事の際も、古島とお春を心配して爆風に煽られる。この時の顔は必見^^;

美人でスタイルが良くて性格もいいんだけど、頭が弱そうで人に侮られるタイプ。で、不幸が似合う感じ。かたせ梨乃にぴったりなんですよねー)

九重=二ノ宮さよ子

(色と欲の両方を満たしてくれる相手として彼女を利用してるとしか思えない学生に、それがわかっていながらもハマっているというベタな設定の彼女が、何故若汐にも心身ともに魅力を感じるのかがわからん。自分の失ったものを持っているというような感じから魅力を感じてたのなら、性技指導中に燃えないはずだからな。バイなの?でも、九重さんはきれいで色っぽくてよかったな)

吉里=藤真利子

(死にたいって言って心中を持ちかける娼婦ってとこまでは、まぁ、よくある話ですが、剃刀持って往来で暴れ出し、弾みで金魚売の男を殺してしまい、後にはひけなくてなって自分もその剃刀で首を切るってのはなぁ。色々不自然です。)

セクハラ巡査=緒形拳

(親切心なのか知らんが、廓にあがる前の久乃に「娼婦は絶頂に至ってはダメだ」というようなことをもっと卑俗な表現で言うんですな。その後に会ったときにも言ってたが、そこはそんな押すとこか。この人がいい人で悪気がないのはよくわかるんだが、女性としてはこういうの非常に不快だよな)

女衒=岸部一徳

廓の下っ端=ビートきよし(※別に豪華ではないが何故出ているのかと思って)

お春=野村真美(ほとんど床にいるので顔がよく認識できなかったが、若汐と対照的に甘え上手でかわいい感じでなかなか適役だったと思う)

若汐改め紫を身請けしてくれた岡山の旦那=小林稔

……こんなところかなぁ。あ、ナレーションの岸田今日子様も素晴らしかったです^^

(11月鑑賞分)