『ディオニュソスの階段 』 ルカ・ディ・フルヴィオ

ディオニュソスの階段 (上)   (下)   ルカ・ディ・フルヴィオ/飯田 亮介 訳 (ハヤカワ文庫) 各 ¥798  評価…★★★☆☆ <あらすじ> 市警の若き警部ジェルミナルは連続児童誘拐事件を解決し一躍英雄となったが、その事件のある部分が彼の心に深い傷を残した。彼はその傷を忘れるために麻薬に溺れるようになり、ある夜とうとう阿片窟の手入れで捕まってしまう。本来なら取り返しのつかない大失態だが、本部署長は彼に誘拐された息子を助けてもらったという恩があり、彼の才能を惜しんでもいたため、何とか退職にならないよう尽力してくれる。その結果、ジェルミナルは市での最悪な地区への転任となった。 とても同じ市内とは思えないほど荒んだその地区には、折りしもサーカス団が訪れたこともあり常にも増して怪しげな人間が溢れていた。また、何とはなしに不穏な空気が漂い始めていた。そして、それはまず、その地区の有力者であるニーフ家で惨殺事件という形で姿を現した。ジェルミナルは転任早々その事件を担当することになる。ジェルミナルは、自分の常識からかけ離れた人々に呆れ戸惑いながらも、異形の医師ノヴェールの力を借りて強引に調査を進め、驚くべき事実を発見する。 その事実を踏まえ捜査を続けていくジェルミナルだが、非協力的な工場の従業員たち、彼らを扇動しているらしき社会主義の青年、サーカス団の連中など周囲は胡散臭い連中ばかりだ。一応味方であるノヴェールも高い身分でありながら奇形研究所を運営し、かつ奇妙な医師活動を行っているなど、どこか得体のしれないところがある。そんな中、ジェルミナルは偶然出逢った美しく魅力的な娘イグネースと激しい恋に落ちる。彼女はサーカスの踊り子だった。彼女も普通の存在ではないようだが、二人の燃え上がる気持ちは止められなかった。 やがて、次の殺人事件が起こる。今度も有力者一家の惨殺であり、ことに女主人の殺し方はひどいものだった。そこには明らかに犯人からのメッセージがあるはずだ。ジェルミナルは他の事件の現場で見つけたものから、ある結論に近づきつつあった。
※長編の上に重層構造なのであらすじがうまく書けません(T_T) 気力があったら修正するかもしれませんが、とりあえずこれで勘弁して下さいm(_ _)m 文庫裏紹介文を見るとかなり魅力的な感じなんだけど、帯の惹句を見ると微妙感が漂っているこの作品。 (ちなみに上巻は 「殺人鬼への第の一歩。踏み出すのはいともたやすい」  、下巻は 「胸を震わす絶望小説」  ) 上下巻ということもあって購入するか否か相当に迷いましたが、殺人鬼とフリークスの誘惑に負けて結局購入。 で、読後。その言葉が適切がどうかは別として下巻の惹句は正しいのだと思いました。これはミステリの類ではないのですね。謎解きや犯罪を描く小説ではなくて、病んだ社会に住む病んだ人々を血糊と汚物で描く暗黒小説ってところでしょうか。サイコ系(メンヘルというべき?)要素がかなり強いですね。ほんとにまともな人がひとりもいない。巨大な精神病院のようです。ただ、一応それぞれにそれなりの救済はあるので読後感はそんなに悪くないです。 ちなみに上巻帯の裏表紙側には 「どのようにして一人の人間が殺人鬼へと変貌を遂げるのか。しかも、階段をのぼるように着実に一歩一歩。本書は、恐ろしくも哀しい一人の殺人鬼の激動の人生を描き切っている 」との紹介文があるのですが、いわゆる殺人鬼ものではないのでこれはちょっと適切ではないと思います。 ※以下ネタバレ有り※ しかし、最初はかなり読みづらかったですね。まず、舞台となる場所も時代も明示されていないんです。おそらく19世紀後半の欧州の都市だろうとは思うんですが、はっきりわかるところがないため物語に入っていきにくいんですね( 私の知識不足もあるかもしれませんが…)。 そして、内容が重い上に構成も入り組んでいて、欧州モノ特有の過剰で無意味な細部の描写からくるだらだら感(あくまで私見ですm(_ _)m)がある上に、ジェルミナルとイグネースの私には無意味で唐突としか思えない激しい恋愛とかがうっとうしくて、これは大失敗だったかと思ったのですが、過去の話が語られだす頃から急に面白くてなってきます。現在の部分より過去の部分の方が描写や何かも生き生きしていて圧倒的に面白いんです。 そして、事件の犯人は物凄く早い段階でわかる(読者としても凄く早く見当がつくんですが、話の中でも下巻の真ん中辺で明らかになります)んですが、もうミステリではないことはわかっているので気にはなりませんね。実際、現代の事件はちょっと何が何だかって終わり方をします。そして、その後、過去の話の山場ともいえる部分が語られるのがこの作品の構成の凄いところですね。でも、私はこのラストは結構嫌いじゃないです。ジェルミナルに余り魅力がないせいかなぁ。現代の部分はまぁ、いいかって感じなんですよね。スティグルはちょっとかわいそうだけど、一応目的は果たしたから良いのではないでしょうか。 ちなみに、この作品は完成する前に映画化権がイタリアの映画会社によって購入されているんだそうですが、それは失敗だったんじゃないですかねぇ…。映画化するには色々厳しいところがあると思うけど。扇情的な部分だけつなぎ合わせて原作とはまるきり別物の映画を作ることはできるだろうけど、それは映画化したとは言わないですよねぇ。まぁ、そういう映画化ってよくあるような気もするけど。 (10月下旬読了分)