『エナメルを塗った魂の比重』 佐藤 友哉

エナメルを塗った魂の比重<鏡稜子ときせかえ密室>  佐藤 友哉 (講談社文庫) ¥820  評価…★★★★☆ <作品紹介> コスプレする少女と同人誌に燃える少女。凄絶ないじめを受ける少女といじめる少年。そして人肉しか食べられなくなってしまった少女!彼女たちの中に美しい転校生がやってきた日、惨劇の幕が開かれる。密室に捨て置かれた血塗れの死体は錯綜する事件の序章に過ぎない。美少女学園ミステリーの最果て作。 (文庫裏表紙紹介文) --------------------------------------------- この紹介文はちょっと違うと思うんですが、あらすじを書くのが困難な作品なので…(T_T) まぁ、ここに提示されるキイワードに反応する人が読めば、そんな期待外れってことはないからいいのかもしれない。でも、学園ミステリーとはちょっと言えないんじゃないかしら…。確かに美少女はたくさん出るけど^^;
ちなみに本作は、『フリッカー式 <鏡公彦にうってつけの殺人 >』から始まる 鏡家サーガ の第二作となっておりますが、前作を読まずとも充分楽しめると思います。前作を読んでから読むと、「あ、これは」と思うところも確かにありますが、そういうのはどうでもいい感じの作品なんですよね、これ(笑) あと、前作の方がデビュー作ということもあってか、本作より混沌としている上に内容もアレな感じで、受け付けない方も多いかと思われますので、もし本作を読んでOKだったら前作…という読み方をした方がいいかもしれません。 ※以下ネタバレ有り※ 私は前作『フリッカー式 』を読んで、余りの荒唐無稽さと色んな意味での気持ち悪さに呆れ返りつつも面白いと感じてしまったクチです。「何じゃ、こりゃ…」と思いつつも読むのをやめられないってのは、やっぱり面白い小説と言えるでしょう。(舞城氏作中の台詞参照^^:) まぁ、私が危ない人やネタが好きだというのもありますが。 それにしても前回の、権力者どもが少女をレイプして望まない妊娠をさせることによって予言者を製造するっていう設定はひどいよな。しかも、それによって生まれたのが鏡家の次女・稜子さんだから、この設定ってずっとついてまわるんだよね(ちなみに三女・佐奈は直接的に被害者になります。ひでぇ…)。そこがちょっと嫌だわ。実際、本作でもそこに触れてます。さすがに言葉を濁してはいるけど。 で、何度も書いてるけどストーリーにさしたる意味はないような作品なので、オチがどうだとかその展開はないだろうとかいうのは言わないようにしたいところなのですが、やっぱりこれだけは言わせてもらいたいなぁ。古川美恵子の能力はいくら何でも反則じゃない? 古川美恵子がある人の血を飲むと周囲の人間には彼女がその血液の主と同一人物に見えてしまうって…。(つまり、美恵子が花子さんの血を飲めば花子さんに、太郎さんの血を飲めば太郎さんに見えるわけです。で、その能力を利用して色んな人になりすますわけ。作中では女性にしかなってないけど理論上は男性にもなれるはず) その謎はどう考えても解けないよなぁ。他の謎や仕掛けは、前作読んで予言者製造とかの基礎知識があったし、わかりやすいヒントも結構あった(青威=中村の場合とか)ので大体見当はついたけど。 綾香=古川美恵子も、綾香の千鶴への態度からそうかなとは思ってたけど、整形か憑依かなと思ってた。(これでも充分に荒唐無稽な仕掛けですよね…) まぁ、作中でその謎解きというか種明かしをする際に、その説明をしてる人物が「ああ、本当に言葉は便利だね。なんだって説明できる。口にしただけで事実になる」と言ってるくらいなので、確信犯(誤用の方で^^;)なんでしょうけどね。 あとは個人的に人食い砂絵ちゃんのくだりが好き。無意味に設定や描写がリアルでよい。最期はかわいそうだけど、まぁ、やむを得ないかなぁ。実験のせいで人食いになってしまった(予言者製造の失敗作がまれに人食いになるそうです。何故かとか考えてはいけません)わけだから本人に罪はないとはいえ、人を3人も食い殺してるからねぇ。ああ、噛まれてショック死した千鶴の妹を入れれば4人か。でも、人間は純粋な肉食動物ではないから人肉だけ食べてたら病気になると思うけどなぁ。しかも、砂絵ちゃんの場合は火を通してるし。あのダーマーだって少しは野菜も食べてたぞ。…と、こういうのも突っ込んではいけないか。というか、ふつうはこんな突っ込みはしないのかな。 それと、この題名も私は好きだな。少女趣味だけどキレイでわかりやすいしね^^;  ※ダーマー=ジェフリー・ダーマー。17人を殺したゲイ殺人者。           捕まる前の1年ほどは被害者の肉を食べて生活していた。