『 乳と卵 』 川上 未映子

乳と卵(らん) (文春文庫)

◆ 乳と卵(らん)  川上 未映子 ( 文春文庫 ) \400

評価…★★★☆☆

<作品紹介>

娘の緑子を連れて大阪から上京してきた姉でホステスの巻子。巻子は豊胸手術を受けることに取り憑かれている。緑子は言葉を発することを拒否し、ノートに言葉を書き連ねる。夏の三日間に展開される哀切なドラマは、身体と言葉の狂おしい交錯としての表現を極める。日本文学の風景を一夜にして変えてしまった、芥川賞受賞作。 ( 文庫裏表紙紹介文 )

この紹介文は字数の問題もあって、かなり雑にまとめられていて気に入らないんだけど、とりあえず更新を優先してこのまま使います(T_T)

で、感想もとりとめなく思いつくまま書いたのをそのまま。後日ちゃんと書き直せるといいなぁ…。


作者である川上未映子さんのルックスはなかなか好みだし、見聞きしている範囲でわかる人間性にも比較的好意を持っているのですが、芥川賞受賞作である本作の各種書評や受賞時の取り上げられ方などから、正直ちょっと偏見というか先入観を持って読み始めたのですが、思いの外によかったです。

そんなベタにせんでもって感じの題名から予想していたよりずっと作品は洗練されているんですね。

当時、関西弁混じりの文体というのも結構話題になっていたように思うけど、そんなもの言われなければ気にならないという程度。それは私が西日本人だからかもしれないけど、同様な関西弁混じりの作品は結構気障りに思うことが多いので、やっぱりこの作品の文体は計算されているというか、洗練されているのだと思うの。

そして、ほんとうに題名通りに 「 月経 」 と 「 乳房 」 について、しきりに語られている作品自体も意外なほどさらっとしている。

切り口やテーマが何であれ、女性性というようなものを題材にした場合は、何だかべとっとかじめっとした印象を受けることが多いのだけれども、本作はしきりに卵子だの血だの胸だの乳首だのということが語られ、そういった生理的な事柄や年齢からくる衰えなど、かなりリアルな描写などもあるのだが、不思議にさらっとしているのですね。

それは、語り手が当事者ではなく傍観者で、当事者達の心情はストレートに描かれていないせいかもしれないが、豊胸手術に情熱を燃やしている語り手の姉と年齢が近い上に同じく貧乳である( 泣笑 ) 私が読んでも不快に思うことが全くないのにはちょっと感心した。私は、年齢や設定が近いと身につまされて嫌な気分になることが多いのだけれども、本作では素直に共感する部分があったぐらいで、ほとんどひっかかりなく読めましたね。

あと、作中ちょっと唐突な感じで差し挟まれる、それも語り手の見聞とも妄想ともつかない豊胸手術希望の女子とそれを男性的精神に毒されてるか何か言って批判する女子のやりとりは面白かったな。作品の構成とか完成度という意味でいうとあんまり感心できない部分かもしれないんだけど、女子的には表面的にも内包されている部分にも非常に頷けるところがあり、考えさせられます。ちなみに私は、豊胸希望女子とよく似た考え方ですね^^ 貧乳だから思想が似通っているだけではない、と思います、多分^^;

ただ、最後に卵ならぬ玉子で終わるのはちょっとどうなのって気もするけど、わかりやすく劇的でおかしみもありということで、これはこれでまあアリかなぁ。でも、事情はどうあれ自分ちであんなことされたら大変な迷惑だなぁ。

その他細かい内容については長くなるので触れないけど、全体的な印象はさらり、淡々として、何となく明るい感じ。そして、何だか空虚感がある。何というか、晴れた日に誰も住んでいない新しめのワンルームマンションの部屋に入ったみたいな感じ。って、これ自分しかわからないたとえだろうか…。

この作品だけでの判断はできないけど、結構相性が合う作家さんのような気がする。

そして、同時収録の 『 あなたたちの恋愛は瀕死 』 がなかなか拾い物。 20ページぐらいの短い作品なんだけど、最初から最後まで緊密な感じがして、ラストもちょっと衝撃。よくできたお話だなぁと思う。

現代日本が舞台で道具立てもちゃんとリアルな現代日本なのに、何だか翻訳された海外小説を読んでるような気がした。例えば、エイミー・ベンダーの作品って言われたら信じちゃうかも^^;

これは受賞作と違って全部標準語で、登場人物も首都圏生まれの都会人みたいだからそんな感じがするのかな。

私はどちらかというとこの路線の作品をもうちょっと読んでみたいなぁ。