『 東京島 』 桐野 夏生

東京島 (新潮文庫)

◆ 東京島   桐野 夏生 ( 新潮文庫 ) \580

評価…★★★☆☆

<あらすじ>

南洋のとある孤島。そこにある日、クルーザーでの世界一周旅行の途上で嵐に遭い、船が大破したした清子と隆の夫婦が命からがら上陸した。2人は40代で結婚後20年ほど経過しているが、子どもが無く、隆がリストラに近い早期退職をしたのを機に隆の希望でこの酔狂な旅に出たのだった。

自信満々だった夫の隆は遭難以降どっと元気を無くし、年下で生命力に富む清子が面倒を見るような状態になりながらも、それなりに平穏な日々が続いていたが、彼らが上陸してから3ケ月後、何と23人もの日本人の若者が漂着したことから、彼らの生活にも変化が訪れ始める。

そして、遭難から1年経っても救出の見込みは全くなく、心身共に弱っていた隆は事故とも自殺とも他殺ともわからない状況で死んでしまう。一方、島で唯一の女性である清子は逆に更に生命力とある種の権力を増していく。

そんな日々が更に2年過ぎ、今度は11人の中国人のグループが島に漂着した。元々島にいた日本人グループの中でも仲間割れや小競り合いめいたことが起こっていたところに今度は異文化の流入だ。島は更に混乱の度合いを増していく。そして…。

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私のあらすじと文庫裏のヤツはかなり違っているんですが、というか文庫裏のが気に入らないから自分で書いているんですが、本作においてはもしかすると文庫裏の解説の方が作者の意に適っているのかなぁという気がするので、参考までに文庫裏のも載せておきます。

清子は、暴風雨により、孤島に流れついた。夫との酔狂な世界一周クルーズの最中のこと。その後、日本の若者、謎めいた中国人が漂着する。三十一人、その全てが男だ。救出の見込みは依然なく、夫・隆も喪った。だが、たったひとりの女には違いない。求められ争われ、清子は女王の悦びに震える―。東京島と名づけられた小宇宙に産み落とされた、新たな創世紀。谷崎潤一郎賞受賞作。  ( 文庫裏表紙紹介文 )


私は桐野作品で大きなダメージを受けることが多いので、かなり覚悟して読んだのですが、ちょっと拍子抜け。意外と大したことないというか、あれ?って感じ。もちろん、面白いことは面白いし、世評も大変高いのですが、私のイメージと違ったというか。

ちなみに解説とかでは特に触れられてないようですが、南海の孤島に女1人と30人前後の男っていう設定は否応無しに 「 アナタハン島事件 」 を想起させますし、年齢は近いものの特に親しくもない若者の団体の孤島への漂着と、その後起こる争いみたいなのはゴールディングの 『 蝿の王 』 を想起させますね。

ただし、双方より高めの年齢設定になっていますが、時代背景を考えると同じ精神年齢は同じか、むしろ低いくらいかも。

そして、起こる事件も似通ってはいますが、そのよってきたるところや結果はかなり異なっているように思われます。

※以下ネタバレ有り※

そもそも、元々精神的にヤバい感じの人が中心人物に複数 ( マンタさん、ワタナベ、GMことユタカも微妙だし、犬吉もちょっと ) いるというのがいかがなものかと思うわけですね。まぁ、現代日本は実際そういうものなのかもしれませんけども、それが話に関わってくるのはちょっと御都合主義というかなぁ…。

あと、帯とかで大勢の男に対して女1人というのを強調してるんだけど、実際の物語としては、そこはさして重要じゃないように感じられるのですね。その設定を読んだ多くの人が期待するような方向に話は進んでいかないのです。確かに、女を巡っての殺人みたいなものはあるんだけど、それは直接的な欲望とかいうのとはちょっと違う。

さすが平成の草食系男子ども ( 男性陣の大半が20代前半のフリーターなんです  )は違うなぁ(笑)  あ、しかも、それに対して女が平凡な容姿のババァ ( 遭難時41、最終的には46 )だというのもあるけど。

……とちょっと突っ込んではみたものの、最近の ( って、私は文庫だから数年遅れだけど… ) 桐野夏生は多分寓話っぽいものを書こうとしてるんじゃないかなぁと思うんですよね。

まぁ、あくまでも根拠無しの私見ですけど、それは以前、 『 I’m sorry、mama. 』を読んだ時にも感じたんですよね。まぁ、その時はうまく言葉にできなかったというか、ここまでだとは思わなかったんですが。

凄いリアリズムで書ける、というかむしろそれで書くのに向いている人が、敢えて嘘くさい 「 物語 」 を書いているんだという感じなんですよね。

それによって伝えたいこともわからないではないけど、今は酔っ払いなので上手く言葉にできません。…って、いくら事実でもそんな逃げはないよな、我ながら(-"-;)

ちなみに、これ木村多江主演で映画化らしいけど、何をどう間違ったらそんなキャスティングになるのかね???

木村多江だったら平常時でも罪を犯してでもモノにしたいと思うでしょ? ……ってのは中年の意見かもしらんが、いずれにしても彼女は色気はあるが肉感的では全くないし、生命力にも欠ける。南洋の孤島は全く似合わないよ。日焼けしなさそうじゃん。ふつうでもあんまりモノ喰うイメージもないのに、自ら獲ってヘビとか喰うとはとても思えない。あくまでイメージですが。

20年くらい前だったら泉ピン子とか藤山直美とか渡辺えり子とか、イメージぴったりの女優がたくさんいるんだが、やっぱり今の女優さんは皆キレイ過ぎるのかなぁ…。今思い浮かぶのは女優じゃないが、いとうあさこぐらいだ(^_^;)  でも、まさにこんな感じだと思うのよ。実際、さっき名を挙げた女優さんたちみたいにぐいぐい来る感じじゃなくて、ふだんは私は後ろで支えてますみたいなおとなしい地味な女の方が清子のイメージだと思う。

その他の個別のキャラについてとか、女と生殖とか、そういうのについて書き出すと死ぬほど長くなりそうなので割愛。後日書けたら追記するかもだけど、多分一生しないと思う^^;

( 6月読了分 )