『 その土曜日、7時58分 』 ( 2007・米 )

その土曜日、7時58分 コレクターズ・エディション [DVD]

◆ その土曜日、7時58分  ( 2007年・アメリカ )

 監督:シドニー・ルメット

 出演:フィリップ・シーモア・ホフマンイーサン・ホークマリサ・トメイアルバート・フィニー

 評価…★★★☆☆

<あらすじ>

会計士として功成り名遂げたアンディは、会社でも重く用いられ、若く美しい妻を持ち、幸せに暮らしているように思われていたが、実は夫婦関係も今ひとつ上手く行っておらず、精神的にも経済的にも問題を抱えていた。様々な欺瞞で取り繕った彼の危うい生活は、会社に会計監査が入ることによって風前の灯となる。

そこで、アンディが選んだのは犯罪だった。と、言っても、それは行き当たりばったりのものではなく、かなり周到に計算されたものだった。実家の両親が営む宝石店を襲おうというのだ。内情がわかっているのだから、誰かを傷つけることもないし、奪う金も保険金で補填される。誰も傷つけることもないし、誰も損する人もいない。いわば、単なるファミリーアフェアだ。

とはいえ、年齢を重ねて、それなりの威厳や肉や脂も身につけているアンディに強盗ができるわけもなく、実行犯は弟のハンクにしてもらおうと話を持ちかける。実の兄弟なのにアンディと全く似ていないハンクは、男前で人好きがするが実務能力に欠けるタイプ。そのため、結婚生活は破綻に至り、娘の親権は妻に取られ、その養育費も満足に払えないどころか、日々の支払いにも事欠くような生活を送っていた。

気の弱いハンクはアンディの計画に難色を示すが、実際に金には困っているし、襲う相手は実家だということで、悩みながらも結局実行犯を引き受ける。

そして、当日。完璧だと思われたアンディの計画は思いがけないところで綻び始め、予想もしなかった悲劇へと結びつく。


うーん、面白いことは面白いんだけど、それは俳優陣が達者だから力業で面白くしているのではないかと思ったりして。明白な犯罪ではあるけど、上手くやれば誰にもほとんど迷惑をかけずに終わり、結果的には幸せになる人の方が多いはずのちょっとした悪事の計画が、ちょっとした誤算( というか、めっちゃ単純な確認ミスだよな…。こんなの直前に確認しないとダメだろうよ… ) から狂って大きな悲劇となり、そして、それは更なる不幸と悲劇を生み……という話の大筋は確かに面白いんですが、最終結末に至るまでは時間が逆回しで、しかも、それが各登場人物ごとにだったりするのが私はあんまり好きじゃないんですね。同じシーンを何度も見せられるのは時間のムダな感じ。大きく視点が変わったり、発見があったりするならともかく、想像できる範囲内のことばかりなのだもの。しかも、ほんとに知りたいところははっきりとわからなかったりとかするし。

そして、私的にはあのラストがどうにも納得できない。いや、納得はできるのよ。ある意味、あれが一番自然でリアルな終わり方かもしれないなとも思う。でも、あんまりにひど過ぎると思うの(;_;) どんどん悪い方向に転がっていくのは予測できたことだし、それに伴いお兄さんの方が壊れていくというか、完全に腹をくくってしまって一線を越えてしまい、どんどんエスカレートしていくというのも結構予想通りではあるけど、そもそもお兄さん、ほとんど悪くないじゃんと思っちゃうわけですよ。

あんな提案をしたのは確かにお兄さんだし、確認が甘かったのも問題だとは思うけど、弟があんなヘタレで大バカな間抜け野郎でさえなければ全ては回避できたわけですよ。で、本人はそれについて何のフォローもしないどころか邪魔になるようなことばっかりしやがって、それを必死でリカバリーしようとしたお兄さんが不幸な最期を遂げるってあんまりじゃん。で、撃たれたのはまだしも、お父さんに殺されたのは誤解に近いでしょ。確かに話を持ち出したのはお兄さんだけど、弟がヘマをしなければお母さんが死ぬようなことなんか絶対になかったわけだからさ。そこをちゃんとオヤジに説明しとかないとお互い不幸だよー(>_<) あのバカ弟は絶対それを口にしたりしないし、そのうち忘れるぞ、絶対。しかも、弟、しっかり銭持って逃げたよな。あいつ、絶対あれ使うぞ。それにそもそも兄貴の女房寝取るってどういうつもり??? 弾みとか遊びとかでも許せないけど、本気になって兄貴から奪おうとかまで考えるなんて、それだけで死んでも仕方ないよ。あんなにいいお兄さんなのに。弟目線で言えば、いつも兄貴は俺をバカにして…とかいうのはあるのかもしんないけど、実際お前大バカでダメダメなんだから仕方ねぇじゃん。

あと本筋とそんなに関係ないところでいくつか。

まず、冒頭、いきなり中年男のダブついた醜い尻から始まるのには驚かされましたね。もう少し正確に言うと中年夫婦のセックシーンから始まるのです。まぁ、奥さんは若くてキレイだけど、倦怠と年齢でうまく行かない中年夫婦がクスリの力を借りて頑張ってるってシーンなんだよね。 内容的にも、まさか、こんな始まり方とは予想だにしてなかったのでほんと驚いた(@_@) 監督は凄いお歳を召した方だけど、反骨心とか茶目っ気が旺盛でいらっしゃるのかしら。人によってはこのファーストシーンで嫌になるかもしれませんね。余り美しいシーンとは言えないし、私でもちょっとぎょっとしましたもの。作品自体に馴染んでいるとも言い難いし、必要なのか?という気もするけど、何と言うか監督の心意気を感じさせてくれるような気がして悪くないと思いました。

で、お父さんとお兄さんの確執ね。傍から見ていると実によく似た親子だと思えるのだけど、当事者にはそう受け止められないんだよねー。しかも、下にキュートな弟がいればなおさら。その誤解とか行き違いが中年以降にして初めて解けたのかと思ったら、オヤジは息子殺しちまうしなぁ(-"-;) 理解し合えたように見えたけど、それでも、あるいは、それだからこそ、許せなかったのかなぁ…。いずれにしても、お兄ちゃんがかわいそ過ぎ(/_;)

それで、そのお兄さんは何でまた、あんなヤク中になっちゃったのでしょうか? 能力はあるようだし、それに見合う評価も得られ、若くてべっぴんな女房もらって、それでも埋まらない空虚感があったの?それとも、それらを得るためにヤクが必要だったの??? 最後の殺戮における要領のよさとか実行力から考えてもクスリに頼らずとも成功していたと思うのだが。そして、そのシーンでも他のシーンでも弟はほんと最悪。よく、女のコはかわいければいいんでしょって話があるが、彼はまさにその男版なんだよね。優男で人好きがするだけで、何の能力もなく、考えもない。そのくせ、変なとこで変な正義を振りかざしたりして事態を混乱させる。見ていて殺したくなりましたよ(-_-#) 

本作の邦題は最近では珍しく考えてあって、興味を惹くし、内容にも合ってて、悪くないと思っているのですが、原題もこれがなかなかいいんですね。 『 BEFORE THE DEVIL KNOWS YOU'RE DEAD 』。 あなたが死んだのを悪魔が知る前に…というような意味かな? これって多分、何かの成句なんでしょうね。そこがわかんないとピンと来ないのもあるし、異教徒としては「 悪魔 」 って出ちゃうと悪いことがあるのかなって思っちゃうから、やっぱり邦題の方がいい感じですかね。

( 09.11鑑賞分 )