『 キリング・サークル 』 アンドリュー・パイパー

◆ キリング・サークル  アンドリュー・パイパー/訳:佐藤耕士 ( 新潮文庫 )  \940  評価…★★☆☆☆ <あらすじ> 最愛の息子が誘拐された――。四年前、妻を喪い、失意のなか創作サークルに通っていたパトリックは、そこで出会った “ サンドマン ” の物語に魅了される。夢から現れた男、少女を次々に惨殺する殺人鬼。現実に起こる連続殺人……。 そして現在、念願の作家となったパトリックの周囲で再びあの悪夢が甦る。息子はどこに? 二重三重に張り巡らされた精緻な罠、本格派サイコ・ミステリ。 ( 文庫裏表紙紹介文 )
うーん、正直期待外れですな。そもそも題名が最近の洋画みたいなカタカナ英語なので、あんまり期待はしてなかったんだけど、ってか、初見はそれで購入対象外にしたんだけど、帯とか紹介文にちょっと幻惑されてしまって。 最近海外ミステリ・サスペンスでこれという当たりを読んでないという欲求不満もあり。で、結果としては更に不満が募ったわけですが(-"-;) ※以下ネタバレ有り※ えーとね、面白くないことはないんですよ。って、何かしょっちゅうこんなことを言ってる気がしますがf^_^;) リーダビリティはかなりあると思います。私は自身に全く創作の才も欲求もないせいか、異常なほど本を読むくせに作家志望の人々や何かを書きたいと思う人々というのに全く興味がなく、共感もできないのですね。現実においてもフィクションにおいても。なので、作家志望の集まるサークルの話なんて読みたくもないのですが、それでも結構面白く読めましたし。 冒頭からの重度の活字中毒でそこそこ文才もあり幼少時から作家になることを渇望しているけれども、どうやら物語を紡ぐ才能はないらしい主人公の独白だの、創作サークルのあれこれだの、あと愛妻を失った主人公と息子の家族の物語だのは余り面白くはないんですが、何しろこれから殺人鬼が出てくるという期待感に満ちてるので(笑)、特に苦になることもなく、むしろこれから来る破綻に胸躍らせる効果がありました(^_^;) まぁ、題材が私の好みでないだけで文章が下手だとか退屈だとかいうわけでもないですしね。 あ、地下鉄の運転士であるアイバンという男の物語( 作中作でなく本人のね )はなかなか興味深かった。彼が主人公の話の方が読みたいかも。本作中で死んじゃうからパラレルワールドにしないといけないけど^^; で、キイとなるところのアンジェラの話は作中では大変に賞賛されてるけど、フィクションとしてはベタですね。つまらなくはないし、素人の作品としては上出来だろうけど、この作中作にもっと力がないと説得力がないというか乗り切れないんだよね。 あと個人的にサンドマンが怖くない。私のイメージではサンドマンは人を眠りに誘ってくれるいい妖精なんですよねぇ。一般的にもそうじゃないのかなぁ? ここはやっぱりベタベタであってもブギーマンが適切じゃないのかなぁ。 その後の意外な展開っていうのも、まぁ、微妙ですねぇ。だって、どう考えてもアンジェラは殺人鬼かその一味だし、ウィリアムは絶対犯人じゃないし。レンが実はアンジェラの兄で、殺人実行担当だったというのは確かに意外なんだけど、最後の方で実は共犯者がいるんだなってなった時点ではレンだってすぐわかるので、そんなに驚愕するほどの設定ではないですね。必ずしも意外な結末である必要はないとはいえ、もう少し迷う余地が欲しいかなという感じ。あと、凄く典型的なホラーファンって感じのレンが偽のキャラクターだってのはホラーファンとしてはちょっと不快。典型的さがまず不快だったのに、しかも、それが演技だったってのはなぁ。 あと、主人公の秘めていた物語( 愛故に独断で死病の妻を安楽死させた )も全然意外じゃない。むしろ、それしかないだろって感じでした。 でも、殺人鬼の正体とやり口、そうなるに至った過程はぼちぼちだけど、語るべき物語、と言っても完全な創作物ではなく本人の実人生に則した物語を持っている人々を殺していくという対象の選び方と、それはそれらの物語を我が物にするためという動機はなかなか面白いですね。他人の人生を乗っ取ろうとする殺人犯って結構いるけど、1冊の書物を著すために他人の人生をコレクションしするっていうのはちょっと新しい。1人1冊ならともかく1章というのは余りに命が軽いという気がするけど、それぞれの物語の質からするとやむないか。