『 ふたりのノア 』 新井 政彦

◆ ふたりのノア  新井 政彦 (光文社文庫) \820  評価…★★★☆☆ <あらすじ> 心理学者の立原健人は、自らの心の内に巣くう 「 モンスター 」 の欲望が命ずるまま、次々と若い女性を殺していく。周到に計算された 「 完全犯罪 」 ―。 だが、警察の捜査が彼のもとへと迫り来る。逮捕に怯える理性と、次なる獲物を求めてやまない狂気…。追い詰められた健人が迎えた驚愕の結末とは?ネット犯罪を背景に、現代社会の病巣を鋭く抉る心理サスペンス。 ( 文庫裏表紙紹介文 )
※以下ネタバレ有り※ うーん、トリックは斬新だと思うし、犯人である主人公を含め、その妻、妻の前夫と心理学者 ( それもかなり高名 )が登場人物の多くを占めているという設定も面白いんだけど、オチがあんまりじゃないかなぁ…(-"-;) 全然驚愕のラストではないですよ。むしろ予定調和じゃないか? まぁ、死なないのがちょっと意外と言えば意外だけど、心理学者でもあることだし、この結末も充分にありですよね。 病状もほぼ治癒に近いレベルまで寛緩したようだし、これから社会復帰して世の中のために尽くしてめでたしめでたし…って、いい話で終わらせたら被害者の立つ瀬がねぇけどな(-"-;) 私がこの作品で何が最も気に入らないかというと被害者の心に巣食う魔物の正体ですね。 何が 「 モンスター 」 だ。単なる自己中の変態性欲者じゃねぇか(-"-#) 正確に言えば、ロリコンの日焼けした太い太腿フェチね。 で、コイツが許し難いと思うのは、コイツの欲望は努力さえすれば犯罪にならない形で満たせるんですよ。 現在の日本ではほとんど野放しであるレベルの違法行為や、余程運が悪ければ捕まるかもしれないけど注意深くしてれば多分大丈夫というレベルの違法行為を厭わなければ、誰も傷つけずに両者の合意の上で行うことがいくらでも可能だと思うもん。自己流の妙な行動療法なんかしてしまって、欲望がねじまがって膨れ上がってしまったが故にモンスターになってしまったと言いたいのかもしれないけど、それにしてもねぇ…(-"-;)  それに、その展開は正しく精神療法を行っている専門家に対して誤解を招く恐れがあるし、甚だ失礼でもありますよ。 大体そもそもその嗜好を持つに至った理由がどう考えてもトラウマとかじゃないので、全く同情できないんだよねー。インプリンティングぐらい何とかしろよ(-"-;)  いや、何とかならないことがあるのも承知しているが、そんなの誰しもが多かれ少なかれ抱えてんだよ。克服できないなら、何とかして共存すりゃいいじゃねぇか。 しかし、夫に 「 何故私と結婚したの? 」 と訊いて、 「 行動療法だ 」  って答えられたら、物凄いショックだよなぁ…(-"-;) しかも、その答えで全てが腑に落ちるだけに。 ほんとに、こちらの奥さんのトラウマの方がよっぽど深刻だと思うわ。この人は他にも色々心の傷を抱えてるのに、今回の事件のことに加えて、このダメ押し。かわいそう過ぎる(/_;)  あ、行動療法について一応説明するべきですかね。うーん、きちんと解説すると長くなりますが、ざっくり言えば、病因をどうこうしようというのではなく、それによって引き起こされる問題行動を減らし、望ましいとされる行動を増やすというような、 「 行動 」 に力点を置いた治療法です。 まぁ、対症療法ですね。 根本的な解決にはならないけど、実施が容易で、上手くいくこともある。本書の例にもあるように 「 条件付け 」 をしたりするのが一般的みたいです。問題行動を抑制できたら褒美を与え、失敗したら罰を与えるというようなね。 本書の主人公が自分の好みと全く対極にある女性を妻に選んだのは催眠療法的な側面もあるようですが。 …と、本書の理解の一助にはなるかなと書き連ねてはみましたが、私、全くの門外漢なので事実誤認等ある可能性あります。その場合は誠に申し訳ありません(>_<) 本気で興味のある方は専門書などあたって下さいませm(_ _)m そういえば、最近では対象者を探すのに出会い系とか使ったのもネット犯罪って言うのね。紹介文読んだ時点ではもっと高度な内容を予想してたので、ちょっとがっかり。 確かに最近はそういう扱いみたいだけど、くくりが大雑把すぎないですかね? 違う定義だった時代を知っているので違和感あるなぁ。