『 河童少女 ( エンコウショウジョ )』 明智 抄

◆ 河童少女 ( エンコウショウジョ ) 明智 抄 (ぶんか社コミックス) \650  評価…★★★★☆ <作品紹介> カッパのことを猿猴 ( えんこう )と呼び、その正体は親に殺された子供の魂だと言い伝えられている地方を舞台に繰り広げられる様々な女性と子供たちの、主に家族に関わる愛憎の物語。 表題シリーズの他に 『 砂漠蛙 』、『 ありえない 』 を収録。 --------------- ホラー誌掲載だったせいか、割と露骨なグロ描写多めで、精神的にもかなりイタい話が多い作品集です(T_T) カッパが出る話なんだぁとか思って軽い気持ちで読むと、かなりのダメージを受ける可能性大ですのでご注意下さい。 作品紹介で見当はつくかと思いますが、どの作品も幼児虐待や殺人が関わってくるんですよね。いつもより濃い目の絵柄 ( そして、ややデッサン狂い気味… )も相俟って何か物凄い迫力で、私は途中で一度本を置きました。裏表紙にあるような 「 花咲けるリリカル・ホラー 」 では全くないと思います
明智抄らしいと言えば明智抄らしい作品集ではあるのですが、通常に比べるとなんとも黒いんですねぇ(T_T) 明智抄作品は基本 「 動機は執着、愛で解決 」 という名言に基づいて成り立っていて、大体全てを力業でなぎ倒して、「 大丈夫!愛してるから! 」って感じで終わるのですね。仮に世界の一部を破壊し、大勢の人を死に至らしめるようなことがあったとしても、「 私たち愛してるし愛されてるし、今は幸せでしょ?色々あったけど、いいんだよ、大丈夫! 頑張って生きてこうよ! 」って感じで、何か妙に前向きなのです ( これは私の解釈なので異論のある方もおられるかと思いますm(_ _)m )。 ですが、本作は前提が前提である以上、そうはいかないのですね。だって、死んじゃってるわけだから、いくら愛があっても「 生きてこうよ! 」 とはいかない。 ただ、救いのある話もいくつかありますし、第一話である 『 花蓮 』 はとてもいい話です。ちょっとグロ描写があって少々ブラックなお伽噺ですね。まぁ、爺が婆汁喰っちまうカチカチ山のようなものですよf^_^;) ※以下ネタバレ有り※   でも、ほんとにお祖父さんと花蓮ちゃんの互いへの愛情にほのぼのし、かつ涙しますよ。他の凄い話を読んだ後に心を落ち着けたくて思わず再読しちゃいました。ちなみに、現世で幸せになれず、こんな形になってしまうというところが、素直にほのぼのできない所以なのですが、お伽噺って大体そんなものじゃないですか。ええ?そこで鳥になっちゃうの?それってハッピーエンドなの?みたいな感じでf^_^;) そのちょっと腑に落ちない結末であるところのシーン、 新たに猿猴になった花蓮を迎え入れる猿猴たちが、「 おまえはどんな風に殺されたんだ? 」と訊くのに、花蓮「 ううん、花蓮は殺されてないよ。花蓮はじいちゃんとばあちゃんに大事に大事に育てられたよ。そんで、じいちゃんも鯉になっていっしょにきてくれたんよ 」 と答え、その元じいちゃんだった鯉と花蓮の姿を見た猿猴たちが 「 ……ええなぁ 」 と呟くシーンがとても好きです。 お伽噺としても、家族の愛情の話としても素敵です^^   「 大事に大事に育てられた 」 って言える子供 ( 元子供含む ) が一体世界にどのくらいいるんでしょうね。 …と、いわゆるお伽噺と違って現代が舞台なので、つい昨今の親子間における殺人や行政とか福祉のあり方とかに思い至ってしまい、暗い気持ちになったり怒りに駆られたりする可能性があるところが惜しい。 で、一つ一つのお話について触れているととても暗い気持ちになるので ( 黒い部分だけでなく凄く良い部分もあるのですが、その良さを説明するのが難しい )、やめとくのですが、第四話 『 花乃子 』 の中で、折々に教育紙芝居みたいな絵柄と形式で語られる 「 好きな人にたたかれたらどんな気持ちになりますか? 」 で始まるQ&Aは素晴らしいです。暴力や虐待を許容してしまう側の心のあり方が凄くよくわかります。そして、最後の加害者側の気付きもとても良いのです。 「 私をたたく人は嫌いです。私を好きな人は私をたたきません。私はほんとに好きな人をたたいたりしません。でも、すっかり忘れてしまっていました 」 そうなんだよね、SM趣味でもない限り、好きな人をたたいたりしないし、自分をたたく人は嫌いな人だよね、でも人は何故かそれを忘れてしまうことがあるんだろうね。( あ、この場合の「 たたく 」 に体罰は含まれません。私は基本的には体罰肯定派です ) 親しい仲で発生する暴力といった問題に関係する職業の方や、子供に関わる方々 ( 教師、親など )にはぜひこのQ&Aを読んで欲しいものです。 長くなりますが、たたかれる側の気持ちの一部を文章にまとめて以下に紹介します。 この心の動きはとてもよくわかるんだけど、でも間違いなんだと言うことをわかって欲しい。片方が痛みを我慢しないと成り立たない幸せなんて幸せではないのよ。こういう風に相手の気持ちを思いやり、その痛みを感じたり想像したりすることができるというのは、とても素晴らしいし大事なことなんだけど、その方向性を間違えちゃダメなんだよねぇ。お互いが感情をぶつけ合うなり何なりして傷つけ合うのならまだしも、相手を幸せにしようとして過剰に努力することによってお互いが不幸になってしまうというのは何ともやり切れないことです。こういうのを何とかうまく導いてあげることができたら生き延びられるのだろうけど…。   全ての理不尽な暴力と弱い者への心身両面への虐待がこの世から無くなることを祈って止みません。…って、つい、真人間みたいなことを言ってしまったf^_^;) 「 Q.嫌いな人にたたかれたらどんな気持ちになりますか? 」 「 むかつく~ッ。絶対許せない~!! 」 「 Q.では、好きな人にたたかれたらどんな気持ちになりますか? 」 「 むかつく…けど、それ以上になんだか悲しい… どうしてたたいたの? 私が何か悪いことをしたから? 私を嫌いになったの? この痛みは何かの罰? このくらい悪いことを私はしたの…? 」 「 Q.あなたを好きな人があなたをたたこうとしたら? 」 「 たたかれるのはイヤ。痛いから。 でも、私が逃げると私に見捨てられたと思ってあなたは傷つくかもしれないね 」