『 黒い太陽 』 新堂 冬樹

◆ 黒い太陽(上) (下) 新堂 冬樹 (祥伝社文庫) (上)= \670、(下)=\630  評価…★★☆☆☆       <あらすじ> キャバクラ“ミントキャンディ”の黒服・立花篤は、父の入院費を稼ぐため、嫌悪する水商売に身を投じた。救いは、密かに想いを寄せるNO.1キャストの千鶴。勝ち気な立花は、「風俗王」の異名をとる藤堂社長に見込まれ、さらに、歳の近い若きホール長・長瀬の凄腕に刺激を受けて、この世界の魅力に取り憑かれる…。裏社会を描破する鬼才が、今、風俗産業の闇に挑む。  ( 文庫裏表紙紹介文 )
この採点は一般的に言えば辛いとは思うんですが、長年の新堂ファンとしては本作にはこのくらいしかつけられないですねぇ。まぁ、先入観無しに、水商売の世界を描いた小説として読めば充分に面白いとは思います。…と、未読の方のために一応フォロー(^_^;) ※以下ネタバレ有り※ 何というかね、面白いことは面白いんですが、全体に薄くて浅いんです。もちろん、新堂作品に一般的な意味での深みなど求めてないのですが、内容も描写もストーリーも何とも薄味で食い足りないんですよねぇ。一応、裏社会について書いてはいるけど、舞台は水商売業界 ( 性風俗含む ) に限定されていて、裏組織が出てくるわけでもなく、官憲が介入することもなく、業界内部の話にも瞠目するようなこともない本作は、黒新堂とは言い難いですね。主人公が若過ぎ、経験がなさ過ぎるというのはあるかもしれないけど、それでもいくらでも書きようはあると思うし。 そもそも、立花は新堂作品の登場人物とは思えないくらい屈折がないんですよね。そして、彼以外の人物にしても、鬼畜どころか、いわゆる悪い人や嫌なヤツすらいないんですよ、この作品には。立花を裏切る梨花が唯一の悪役かなと思うけど、彼女は性格は悪くないし、その行為も別に非常識というわけでもないですしね。一般社会でもこの程度の裏切りは横行しているでしょう。 私はいわゆる白新堂作品は読んだことはないのですが、ビルドゥングスロマンの趣がある本作は白新堂と言ってもよいのではないかと思います。実際、読後感は悪くなく、失敗で終わるラストも新たな成長物語を予見させて、むしろ爽やかです。 ちなみに、原作を読む前にTVドラマ化されたもの( 立花=永井大、千鶴=井上和香、藤堂=伊原剛志 だったはず )をちらっと見たのですが人物設定はかなり違うのですね。ちゃんと見てないからわかりませんが、結果的にストーリーも相当違ってたのでしょう。でも、今回原作を読んだら相当な既視感に襲われたので、細かいエピソードはかなり忠実だったんだと思うけど。 で、ちゃんと見てないのに評価するのもなんですが、ドラマはドラマで結構よかったと思いますね。イメージ全然合わないよとかいうのは置いといて、こういう若くてきれいな女性が大量に出る華やかな世界のお話は映像には勝てない気がします(^_^;) 私は残念ながら、キャバクラには客としても従業員としても足を踏み入れたことはないのですが、経験のある方はさぞ臨場感があったことではないでしょうか。『 嬢王 』みたくマンガでもよさそうですね。そういう視覚的なメディアへの転換を考えると、この内容の浅さが逆に強みですね。