『 怪談実話系 書き下ろし怪談文芸競作集 』 『 幽 』編集部編

◆ 怪談実話系 書き下ろし怪談文芸競作集  『 幽 』編集部編 ( MF文庫 ) ¥580 評価…★★★★☆ <作品紹介> 実話と物語が不穏に交錯する怪談の醍醐味が、ここに! 怪談専門誌 『 幽 』で活躍する10人の名手が腕を競う史上初の競作集。 極上の恐怖と戦慄を、ご堪能あれ。  ( 文庫帯より ) 収録作品は以下の通り ( 掲載順 )。  『 成人 』  京極夏彦 、 『 見知らぬ女 』  福澤徹三 、 『 顔なし地蔵 』  安曇潤平 、 『 茶飲み話 』  加門七海 、  『 怪談BAR 』  中山市朗 、  『 リナリアの咲く川のほとりで 』  小池壮彦 、  『 つきまとうもの 』  立原透耶 、  『 後を頼む 』  木原浩勝 、  『 顳顬 ( こめかみ ) 蔵出し 』  平山夢明 、  『 美しく爛れた王子様と麗しく膿んだお姫様 』  岩井志麻子 ------------------------------ 「 実話怪談 」 ではなく 「 実話系 」 というところが本書のミソですね。 東雅夫氏による発刊の辞によれば、本書で語られる物語は 「 虚実皮膜のリアルサイドに楔を打ち込み、亀裂を走らせ、われわれの眼前にある現実 ( リアル ) を震撼せしめるものでなければならない 」 という基準に沿ったものなのだそうです。物凄く噛み砕いて言えば、ウソのようなホントの話でもホントのようなウソの話でもいいから、その虚実の境目が分からなくなるような、そして自分の現実感が危うくなるような物語…といった感じですかね。 収録作品の全てがその基準をクリアしているかどうかは読んでからのお楽しみ、ということにしておきましょう。このテの作品の判断基準は人それぞれですしね。ちなみに言えば、私の今回の評価のうち★ひとつ分は、この作品集のコンセプトについてだったりします^^;  先ほどの収録作品の基準とも重なる話ですが、本書が何故 『 怪談実話系 』 と書名に冠するかということについて、再び東氏の発刊の辞から引用すると、 「 実話と物語、ノンフィクションとフィクションが、糾える縄のごとく互 ( かたみ )に侵犯し、不穏に混じり合う…… まさしく虚実皮膜のボーダーランドを体現しているのが、怪談というジャンルの特質であり、また醍醐味でもあるから 」 なのだそうです。 言い得て妙、ですね。 ちょっと修辞が多い気がしますけど^^;   実話怪談と実話系怪談とホラーとが何だかよくわからなくなってる昨今、こういう風に怪談を定義してくれたことは、実に意義のあることだと思います。
※以下ネタバレ有り※ とか言っておきながら、いきなりぶっちゃけますけど、実は私、実話怪談も実話系怪談も余り好きじゃなかったりします。でも、今回、本書を読んでわかりました。 私は心霊系の実話および実話系が全くと言っていいほどダメなんですねぇ。 で、怪異 ( 実話犯罪系含む^^; )について書いたものは好き。 怖い話は好きなんだけど幽霊に余り興味がないんですな。話にバリエーションがつけにくいというのもあるし、恨みやつらみの話は楽しくないし。 その点、怪異は幅広いですからね。 気のせいかなと思うようなことや、小さなことだけど不思議なことから、狐狸妖怪の類、そして、理解できない異常な行動をとる人間まで、その全てが怪異。 幽霊話の怨念だの情念だのと違って、不思議なことや奇妙なことは大抵はどこか面白味があるものだし、妖怪の類や異常な人間たちは恐ろしくも面白かったりします。時に全くオチのないような話があったりもして、それもまた楽し^^;  昔の怪談とか結構そういう感じですよね。 そして、そんな好みの私が具体的に本書個々の作品について論じると、やはり一位は京極夏彦氏の 『 成人 』 ということになっちゃいますかねぇ。で、次点がシマコさんの 『 美しく爛れた王子様と麗しく膿んだお姫様 』 。 どちらもコンセプトにきっちり合致しているし、話もよくできていて、面白くも怖い作品です。前者は割と正統派の怪異怪談で、後者は怪異な人間のお話と対照的なところも良いです。でも、どちらもいわゆる実話怪談好きには余りウケないかも。 ふだん主として実話( or 系 )怪談を書いてる人々の作品のほとんどは、正直言って面白くないです。いや、面白くないは言い過ぎかな。 話はそれなりによく出来てて読ませはするけど、新味がないんですよね。中にはえらいベタなのもあるし。 その点、実話怪談も書くけど小説もかなり書くという組はなかなかイケますね。 福澤徹三氏の 『 見知らぬ女 』 などは、よくある心霊話だと思わせておいて何とも不可思議な結末になります。 おかしいのは周囲か、自分か? 実は自分だけがずっと間違っていたのだとしたら? 確固たる現実だと思っていたものが、些細なことでひび割れ始め、やがて崩壊する…。こういうの書かせるとほんと上手いですよねぇ。突然ふとしたことで世界が、自分が、信じられなくなってくる何とも言えない不安感とか嫌な感じが凄くリアル。 この方は、突然のラストに至るまでの何気ない日常の描写などがほんとに上手いので、オチがつまんなかったとしても ( これは面白いですけど、まぁ、そんなに驚くような話ではないです^^; ) 、そこまでの面白さで結構満足させられますね。 特に本作は、私の親しみのある地域の話だったので、ちょっと評価が甘いかも。そんなに物語の舞台になることはない地方都市なんですよね^^; 実話系怪談と言えばこの方という存在でありながら、現在では小説の方でも大活躍中の平山夢明氏は、今回ちょっと反則というか手抜きというか…。 だって、 『 顳顬 ( こめかみ ) 蔵出し 』 と来たら、ファンおよび 『 幽 』 の読者にはどんなものかわかっちゃうじゃないですか(-"-;) まぁ、題名で種明かししてくれてるから、読んでからの裏切られた感がなくていいとも言えますけど。 で、その通り、いつものコメカミで、まぁ、いつも通りには面白かったですよ。でも、やっぱり新機軸が欲しかった…とか思ってしまうのはワガママなのはわかってるんですけどね。しかし、受け手の側は常に貪欲なものなのでございます。 基準に沿わないといえば、小池壮彦氏の 『 リナリアの咲く川のほとりで 』 は、実話系というにはちょっと幻想的過ぎるんじゃないかと思います。虚構が勝ち過ぎ。お話としては私は嫌いじゃないんですけどね。 でも、ご本人は普段は実話というよりノンフィクションに近い心霊ものを書いてる方( 「 怪奇探偵 」らしい^^; )なんですよねぇ。となるとこの実話っぽくなさは逆にちょっと評価したくもなりますね。そういう観点からも、どっちかというと『 異形 』 シリーズがふさわしいような作品です^^;