『 文庫本福袋 』 坪内 祐三

◆ 文庫本福袋  坪内 祐三 (文春文庫) ¥900 評価…★★★☆☆ <作品紹介> 話題作、古典の中の古典、懐かしい作家……文庫本は様々な顔を見せてくれる。本書は、当代随一の本読みの達人が贈る極上の文庫本読書案内。加えて、それらの文庫本が刊行されたのが 「 どういう時代だったのか 」 を記述する 「 同時代エッセイ 」 でもある。キケロー、ダンテからナンシー関まで、厳選の194冊を収録。 (文庫裏表紙紹介文より)
重度の活字中毒者である私は、そうでないごく普通の人に比べると遥かに大量の本を読んでいると思うのですが、それでも時々 「 どうしてこの世にはこんなに大量の書物が溢れているのだろう? 」 と途方に暮れたような思いに駆られることがあります。 読みたい本、読むべき本はまだまだあるし、自分の知らないところにも数多くの素晴らしい本がきっとあるはず。そんな思いが、月に何冊も新しい本を買い込んで、まだ読んでない本が手元にあるにも関わらず、こうしたブックガイドのような本に手を伸ばさせてしまうのですね。特に文庫はすぐに店頭から無くなるという危機感が強いので、文庫本に限定した案内本は誠に貴重なのです。しかも、そういった実用書的な目的に加え、活字中毒者にとっては同類が本について語る文章を読むのは実に楽しいことなのですね。書評を読むのとはまたちょっと違う面白さがあります。 そして、その実用的な目的のためにも読む楽しみのためにも、重要なのは自分とちょっと違う目線の人が書いている本を選ぶことです。趣味や考え方が似ている人の場合だと、本が自分の蔵書とカブる可能性が非常に高いですし、おそらく文章から得るものも少ないだろうからです。書評や随筆の類だとまた違うんですけどね。そして、趣味は合わなくても文章が確かで、基本的な考え方は合いそうな人が書いたものを選ぶ。( 『 この文庫がすごい! 』 みたいな企画モノ系はこれにあたりません^^; ) 本書の場合は見事にその条件を満たしております。著者は本好き文庫好きで、優れた見識と文章力があって、読書の幅は広いのに私とほとんど趣味が合わない。何しろ著者は 「 怪奇小説は読まない 」 「 ミステリやSFは好きでない 」 人なんですよ。私の偏愛するジャンルを真っ向否定ですよ(笑) でも、感覚的には不思議とズレがないんですよねぇ。そして、著者の紹介する本の中に私が読みたいなぁと思ったものはかなりありました。不思議なものです。 ちなみに紹介された194冊の中で私の蔵書とカブっていたものは次の5冊。 『 あと千回の晩飯 』 山田 風太郎 、 『 病牀六尺 』 正岡 子規 、 『 精神病棟の二十年 』 松本 昭夫 、 『 ほんとに「いい」と思ってる? 』 姫野 カオルコ 、 『 「奇譚クラブ」の人々 』 北原 童夢・早乙女 宏美 。 あと、同じ版の文庫本ではないけど読んだことがあるのは 『 ぼくの大好きな青髭 』 庄司 薫 。 何だこの取り合わせ…。 そして、著者が好きで私も好きな文筆家は内田百  、 澁澤龍彦嵐山光三郎小林信彦都筑道夫鹿島茂 …ってところかな? その他、明治生まれの作家の作品や彼らやその時代に関する本などが趣味が合うところみたいです。あと吉行淳之介野坂昭如田中小実昌色川武大とか、いわゆる昭和元禄に華々しい活躍をした人々の作品も私のフォロー範囲内かな。まぁ、著者はドンピシャの世代なので、私なんかとは読んでる量も思い入れも全然違いますが。 そういえば著者は第三の新人 ( この語を目にしたのは何十年ぶりだろうか?(笑) ) が書くような小説がお好みらしいです。ほんとに全く趣味が合わない^^: 今だったら車屋長吉とか読まれるのかしら? ( って、車屋氏の作品は私も少しは読むんですけど。他に現代の私小説作家が思いつかないので… ) それと、今や私がまず読むことはないであろう海外の古典的名作や思想書の類が、ちょくちょく紹介されていて、久しぶりにその類の本を読みたくなりました。楽な読書ばかりしてちゃダメだなぁと珍しくマトモなことを考えてしまいましたが、実行するかどうかは不明です^^; でも、そういう気持ちにさせてくれた本書は、やはり優れたブックガイドですね。