『江戸繁昌記 寺門静軒無聊伝』 佐藤 雅美

◆ 江戸繁昌記 寺門静軒無聊伝 佐藤 雅美 (講談社文庫) \680  評価…★★★☆☆ <作品紹介> 在野の儒者・寺門静軒は、仕える先も見つからず悶々と困窮の日々を過ごしていた。自分のせいなのか、世間のせいなのか。苦悩する静軒は、漢文戯作で諧謔味たっぷりに江戸の町を活写し出版することを思いつく。思いのたけをぶつけた『 江戸繁昌記 』は当時のベストセラーとなるのだが…。 青年期には悪い仲間に身を投じていたが20歳にして学問を志し、生来の才能と努力で一流の学者にもひけをとらない学力を身につけた静軒の痛快なる波乱の生涯を、その著作『 江戸繁昌記 』からの引用を多く交えつつ描いた作品。  ( ※文庫裏表紙紹介文を一部アレンジしました )
これは正直なところ、かなり読みにくい本です。何しろ新刊として発売時(昨年4月か5月)にすぐ買って読み始めたのに読了したのが今頃ですもん。とにかく書き下し文の引用が多過ぎ。私は漢文にはかなり馴染みがある方なのですが、それでも読むのがめんどくさくなっちゃったくらいだから人によっては全然ダメかもしれないですねぇ。 でも、私の場合、何よりもまずかったのは、もっと小説っぽいのを期待していたからでしょうね。それなのに、冒頭からやたらに書き下し文の引用の連発で、静軒自身についてはなかなか語られないし、語られてる部分から描かれる人物像はどうも魅力がないし。 書き下し文の内容は確かに面白いんですが、そういうのを読むつもりではなかったので、受け入れ態勢ができておらず読むのに気がのらないんですよねぇ。 そんなこんなで、最初の1/3くらい読んでから、ずっと放り出していたのですが、実はここがガマンのしどころだったのですねぇ。その後、段々と面白くなってくるんです。 静軒生涯の痛恨事となる水戸藩への仕官失敗の経緯( 静軒の常軌を逸した言動や感じが読んでて、かなり不快ですが逆に面白い )、その後の失意の亡父の実家訪問、結婚とその後の生活、『 江戸繁昌記 』出版の顛末と来て、静軒にさほど好感は持てないながらも感情移入できるようになってくるんですね。話自体もこの辺りはかなり小説っぽくなってくるし。そうなってくると、元々漢文は嫌いじゃないですから書き下し文の引用もすらすら読めるし、逆に面白くなってくるんです。まぁ、かつては白文で読んでたのに書き下し文読むのが面倒になること自体、我ながらどうかという気もしますが^^; 佐藤雅美氏の他のシリーズものみたいなのを期待して読むとちょっとツラいと思いますが、江戸時代の風俗や戯作が好きな人には結構おすすめの一冊です。 参考までに戯作を漢文にやきなおしてる部分を一部紹介しますね。 戯作は山東京伝『 傾城買四十八手 』です。 女 郎 「 うそをおつきなんし。ぬしやァいつそ手があるつしやるョ 」 ムスコ 「 手とやらは二本ほきやござりやせん 」 女 郎 「 にくらしいのお 」        ↓       「 妓曰く、亦人を欺くのみ。君多く手段あり。 」 「 郎笑つて曰く、足を加えて僅かに四本なり。 」 「 妓、星眼波を流して曰く、憎むべし 」