『ゾディアック』 ロバート・グレイスミス

◆ ゾディアック  ロバート・グレイスミス/イシイ シノブ 訳 (ヴィレッジブックス文庫) ¥893

 評価…★★★★☆

<作品紹介>

60年代後半、全米を恐怖におとしいれた連続殺人鬼がいる―その名はゾディアック。

殺害方法の残忍さと多様さもさることながら、暗号を使った犯行声明をマスコミ宛に次々と送りつづけてくる犯人の前代未聞の異常さが、人びとを震えあがらせた。

いまだ解決されていないこの事件にとり憑かれ、みずからの生活を犠牲にしてまで犯人の正体を暴くことに命を賭けた男たちや、凶行の犠牲となった被害者とその家族たち…著者の執念の追跡によって集められた数々の証言と証拠品によって明かされる、稀代の殺人鬼、ゾディアックの全貌。 (文庫裏表紙紹介文より)

ゾディアックは、かの「酒鬼薔薇事件」発生時にその類似性が取り沙汰されたこともあり、一般の日本人にも結構知られているアメリカの連続殺人鬼ですね。一応、以下に簡単に情報をまとめておきます。(情報の出典はほとんど前掲 『ゾディアック』 からですが、私のうろ覚えの知識も混ざっています。なので、事実誤認等あったらすみませんm(_ _)m)

ゾディアックとは本人がマスコミに送りつけた声明文の中で語った名前で、以後この正体不明の犯人はその名で呼ばれることになる。この名前は占星術における天体の位置を表すときに用いられる12の宮(黄道十二宮)のことを指す言葉でもあり、その点からも他の事実からも犯人は天体や占星術を意識していると思われる節がある。

彼がゾディアックとして犯した最初の犯罪は1968年12月のカップル殺しだ。それから2年以上にわたって彼は多くの人を襲い、殺し、その傍らマスコミあてに多くの声明文(時には犯罪の証拠品も)を送りつけるが、やがて間遠になり、そして1974年3月のものを最後にぱたりと途絶える。そして、4年後に馴染みの新聞社に「戻ってきた」という手紙が届いたものの、その後ゾディアックのものと特定できる犯罪は起こらず、声明文も送られてくることはなかった。

結局、明白にゾディアックの犯行となっている事件は5件、犠牲者は6人であるが、彼の犯行だと思われる事件はまだ数件あり、ゾディアック自身は37人殺したと主張している。

ちなみに、ゾディアックと酒鬼薔薇の類似性がことさらに取り沙汰されたのは、酒鬼薔薇の犯行声明文にゾディアックが自分のマークとして用いていたものとよく似たマークが書かれていたこと、ゾディアックの声明文の中の有名な台詞 「 私は人を殺すのが好きだ。何故ならば楽しいからだ」 に酷似した台詞 「 僕は殺しが愉快でたまらない。人の死が見たくて見たくてしょうがない 」 があったことが大きいだろう。

犯罪の動機が性的サディズムにあり、自己顕示欲もあるという点で確かに似通ってはいるが、連続殺人鬼にはこういうタイプはそれほど珍しくはない。


シリアルキラーには目が無い私なのですが、切り裂きジャックとゾディアックには今ひとつ食指が動かないんですよね。何故ならば、この二者は正体不明だからです。私は犯罪そのものより、犯人が何故その罪を犯したのか、犯人はどんな人物だったのかといったところに非常に興味をひかれるので、そこが明らかになってない事件はどんな面白い事件でも(いや、面白い事件ほど)、追究する気にはならないのです。

そんなわけで、有名過ぎるほど有名なゾディアックについての本を読むのは意外にも今回が初めてなのでした。いや、実は本書原作の映画が見たくて、その前に読もうかなと思ってね^^;

さて、本書はゾディアックが犯行声明を送りつけていたサンフランシスコ・クロニクル紙に事件当時風刺漫画家として勤務していたという、リアルタイムで事件の渦中にいたとも言える人物が書いたもので、ゾディアックからの手紙などの図版も豊富に収録されており、当時の捜査関係者の証言などもふんだんにあり、非常に情報量が豊富で面白い本です。

州をまたがって長期にわたって起こった事件だったため、実際に捜査にあたっていた人が全ての情報を知っているわけではなく、一般人である著者の方が多くの情報を持っていて大局的に事件を眺められているんですよね。今さらながらアメリカって変な国だ。まぁ、わが国と違って国土が広大だから仕方が無い面もあるけど、捜査機関が統一されていたらゾディアックは捕まってたんじゃないかという感が強いので、余計に何だかなぁって感じがするんですよねぇ。

こうして改めてまとまった情報を読むと、ほんとにこの事件はアメリカならでは感が強いですね。まぁ、もともとシリアルキラーアメリカ名産ではありますけど(笑)、捜査の不手際と言い、容疑者の多さと言い、被害者の迂闊さと言い、実にアメリカ的。マスコミを利用する犯人と、それに飛びつくマスコミというのもね。ああ、そして、シリアルキラーに魅入られてしまい、事件を追い、書物まで著してしまう著者もそうだな。アメリカ人って、こういう犯罪系ノンフィクション好きですよね。まぁ、先にも言いましたが、シリアルキラーが名産だし、猟奇殺人も豊富に産出してますからねぇ(笑)

そんなわけで、非常に面白い本だったのですが、やっぱり読後に欲求不満のようなものが残るは避けられなかったですね。だって、犯人がわかんないんだもん(T_T)

しかも、最有力容疑者は既に死亡してるし、関係者もかなり物故されてることなどからして、今後の解決もおそらく望めないであろうしね。これが切り裂きジャックくらい昔の話だとまだ諦めもつくんですがねぇ…。