『壊れた少女を拾ったので 』 遠藤 徹

◆ 壊れた少女を拾ったので  遠藤 徹 (角川ホラー文庫) ¥540  評価…★★★☆☆ <作品紹介> ほおら、みいつけた――。 きしんだ声に引かれていくと、死にかけたペットの山の中、わたくしは少女と出会いました。その娘はきれいだったので、もっともっと美しくするために、わたくしは血と粘液にまみれながらノコギリをふるいました・・・・・・。優しくて残酷な少女たちが織りなす背徳と悦楽、加虐と被虐の物語。日本推理作家協会賞短編部門候補の表題作はじめ五編を収録、禁忌を踏み越え日常を侵食する恐怖の作品集! (文庫裏表紙紹介文) うーん、この叙情的な紹介文は余り感心しないんだけど表題作はあらすじが書きづら過ぎる…(-"-;)  でも、他の4篇はこういう感じの作品ではないというところを強く訴えておきたい。でも、あんまり説明するとネタ割っちゃいそうな作品ばっかりなんだよなぁ…。 うー、余り上手く書けませんが一応ちょっと紹介してみます(>_<) …というわけで、以下ややネタ割り気味です。 それが作品の魅力を損なうものではないと思いますが、先入観無しに読みたい方は以下はお読みになりませんように m(_ _)m 『 弁頭屋 』 … 靖之の大学は数年前始まった戦争の影響で急遽移転したため、かなり辺鄙なところにある。そこで、その立地に目をつけた移動式弁当屋が大学周辺に現れ始めた。靖之の目当ては自分と同年代の双子の美人姉妹が経営する弁当屋だ。実は彼は姉娘の方に仄かな恋心を抱いているのだ。そして、今日も彼は彼女たちのおすすめ弁当を買った。ところが、渡されたのはくたびれた親父の頭だった。 『 赤ヒ月 』 … ある日偶然に、理科の美人教師・高槻先生の聖餐を目撃した僕は、カエルの解剖の実験中に彼女に密かに問いかけられる。「君はどっち?」。僕は黙ったままだったが先生には答えがわかったようだった。そして、同じく聖餐を行う仲間として同級生の高宮真紀を紹介される。その日から僕は彼女たちと行動を共にするようになった。僕は最初は見ているだけだったが、ある日とらえた獲物が僕を名指しして身を投げ出したのをきっかけに変わり始める。やがて、僕らの活動に気付いた妨害者たちが現れ… 『 カデンツァ 』 … 妻の夕菜が愛しているのは俺ではない。炊飯器だ。そして、とうとう彼女はヤツの子供を身ごもったという。しかし、今の俺にはそんなことは大したことではない。俺にも夕菜より愛する女性がいるからだ。彼女の名はアンナ。セクシーでかわいいホットプレートだ。 『 桃色遊戯 』 … 世界は今見渡す限りピンク色だった。比喩ではなく、世界中がピンク色の生きた霧に覆われているのだ。全てを文字通り侵食する、このピンク色の霧は新種のダニのかたまりだった。
この作品集は全体的にホラーというよりはSF色が強い気がします。ただ、描かれていることについての説明がほとんどないのと、グロ系の描写がかなり多いのでそういうのが苦手な人はダメかも。でも、私はグロ描写はほとんど気になりませんでしたね。『 姉飼 』の時はちょっとどうかと思ったけど今回はそんな厭な感じがしませんでした。お話の方にインパクトがあるからかなぁ?まぁ、猟奇慣れしている私の意見は余りあてにならないかもしれませんが…。 『 弁頭屋 』 と 『 カデンツァ 』は、異様で不可思議な世界を何ら説明することもなく、明るく軽い感じで書いてます。何かしょっちゅう言ってるような気がして恐縮なんですが、題名のセンスも含めて筒井康隆っぽい感じですね。私は家電と恋愛する人々の話 『 カデンツァ 』 がかなり好きかも^^ 無生物と恋愛した上に子まで生してしまう話って実は結構ありますよねぇ。 『 赤ヒ月 』はちょっと耽美感ありますね。猟奇色強め、というか血糊多め^^; これが一番ホラーっぽいかな? 『 桃色遊戯 』は割とよくある病気や異生物侵略or発生系の終末SFですよね。ダニに食い尽くされていく感じや、その結果の人体の様子の描写などはグロめかもしれませんが、全体の雰囲気は叙情的な感じの作品です。 表題作は…どろどろぐちゃぐちゃって感じですかねぇ(-"-;) 人体や虫や何かわからないもののグロ系描写と少女の独白による狂った感じの物語が何とも厭な感じです。嫌いじゃないし面白いと思うんだけど、私はちょっと苦手(T_T) 男性の書く少女モノという印象がダメなのかも。 ※以下ネタバレ有り※ ここから完全にネタバレで、自分のための感想です m(_ _)m 『 弁頭屋 』 は完全に題名ありきなんじゃないの?って感じの作品ですね。何故に弁当容器が人間の頭になってるのか全く不明。衛生的にも作業的にもコスト的にも食味的にも(まだあるけど以下略)、いかなる観点から見ても、死んだ人間の頭は弁当容器には全く適してないと思うんですけどね。土に還る素材であるのが考えられる唯一のメリットかと思うけど、完全にそうなるには時間がかかるし一回使い捨てでは地球にやさしいとも言い難いし。 でも、その不自然さを自然なものとして描いているところや、凄くいい加減な感じで戦争が始まり続行している国の様子、同じく何かといいかげんな感じの人々、残留思念だか何だかでしゃべる弁頭の様子などがなかなか面白くて私は結構好きです。 『 赤ヒ月 』 は全体的にエロティックなお話ですね。私はグロさよりもそちらを強く感じました。美人教師と美人女子高生と線の細い暗い男子高校生が学校を舞台に、獲物を狩り、血を啜り臓物を喰らう。そして、喰われる獲物たちは食われるうちに苦痛が快感に変わり、最後には捕食者たちを賛美し崇拝するようになる。これって要するにSMの世界ですよね。ちなみに紹介文の時は、高槻先生が主人公に問いかける台詞をネタ割らないように「どっち?」と表記しましたが、原文は 「君は、食べたいほう?それとも、……食べられたい?」 です。やっぱりSM色濃厚だと思いません? カンニバリズムは究極の愛の形という人々もいる(佐川クンもこの系統かな)し、そこまで行かずとも相手を愛する余り体の表面だけでなく内側まで…という発想はそう珍しくはないようですしね。あ、あくまでもその筋での話ですけど^^; でも、古典的なところで言えば、『 青頭巾 』という名作もありますし、愛する相手を自分の中に取り込みたいとか、その逆で相手を取り込む、または取り込まれることで愛を感じるということは、結構自然なことのような気がします。私自身はそういう趣味嗜好は全くないですが、その気持ちはわからないでもないですね。 ただ、何故に腹を開いて内臓を喰らっても死なずに(死ぬ場合もある)、体調にも問題なく復元できるのかが非常に疑問なのですが、吸血鬼の進化系みたいなものだということでとりあえず納得しておきましょう^^; それと、耽美な中で突然割り込んでくる内臓がムカデになった高山秀作くんの話はちょっと突飛過ぎはしませんかね。子供の時に主人公をいじめた高山くんに、主人公が仕返しにムカデを食わせていたのが育ったらしいんですが、そりゃないだろう(爆)個人的にはかなりウケましたが、耽美でエロティックな雰囲気を壊すので、このシーンはない方がいいんじゃないかと思いました。 うーん、予想以上に長くなったのでこの辺でやめとこう。後の作品については気が向いたら後日書くかもしれません。(そう言って書いたためしがないけど…)