『食物漫遊記』 種村 季弘


食物漫遊記.jpg ◆ 食物漫遊記  種村 季弘 (ちくま文庫) ¥735  評価…★★★★☆ <内容紹介> 画にかいた餅を食べる話、辿りつけない料理屋の話、鯨飲馬食と断食絶食の話、人を食い人に食われる話など、食物をめぐって人びとが演じる滑稽譚、怪異譚のかずかず。エンサイクロペディストによる、ひと味ちがう美味随筆。  (文庫裏紹介文より) 取り上げられるのは、岡山の焼鳥、尾道のママカリ、愛宕下の豆腐、横浜の牛肉、駒込の洋食、麻布の紅茶、雑司ヶ谷の料理店、フライブルクのアラブ・パン、蒲田の天どん、鎌倉のきのこ、向島のどぜう、銚子の亀甲万、築地のうどん…と殆どがごくありふれた品々。 しかし、そこから話は虚実取り混ぜ縦横無尽に展開していき、時には一篇の小説を読んでいるような気分にさせられる何とも不思議な食の随筆集。
書物漫遊記 』『 贋物漫遊記 』と並ぶ漫遊記シリーズの一冊です。 私は三冊まとめて買って、三冊を並行して読むというわがままな読み方をしていましたが、とりあえず本書を一番に読み終わりました。何しろ種村氏は紹介文にもある通りの「 エンサイクロペディスト 」ですから、短い文章でも情報量が凄いんです。でも、本書は随分と軟らかい話が多いので読みやすいんですね。食の話のせいなのか、もうひとつの本能的な欲望がらみの話が結構あったりして、私としては意外な感じでした。種村氏って上品なインテリのイメージだったんですが意外とバンカラ(死語)なんですよ。ちょっと他の著作にはないような生々しい感じ(下品と言ってもいいかも…)もあり、そういうところも面白かったですね。 では、あんまり引用しないよう気をつけつつ(薄い本なので^^;) 内容紹介していきましょう。 まず、『 嘘ばっかり 』と題された序章がえらく面白い。中でも鈴木くんの話が私は好きです。ある小説の主人公で、官吏という仕事の傍ら新聞雑誌に食物随筆を寄稿するほどの食通。彼の語る食味話は生き生きとして面白く実に美味そう。しかし、現実の彼はそれらのものを一度も食べたことはなく、たまにご馳走を食べると腹痛を起こす始末。普段は主に茶粥を食べているというんです。もう、この小説を何とかして読みたくてたまらないです(>_<) その他、食に関わる「嘘ばっかり」な話を紹介しているところから、この本の性質が何となくわかりますよね^^ うーん、この調子で紹介しているとやはり全部紹介しちゃいそうだ…。涙を飲んで詳細は以下割愛しますが、その他、「 泥鰌地獄 」は実在しない?という話や、英国人家族に招かれたお茶会で、「 スプーンはチョークではありません 」 と中学英語の教科書のような不思議な台詞を言われる話(内容を読めばこの台詞の意味はすぐわかります^^ )などが私は特に面白かったです。 あ、あと素朴なものを大量に食べる快感というのにも深く同感(『一品大盛りの味』)。私は食い意地がはってるのに意外とすぐ満腹になるので、大量に食べられる人って凄く羨ましいんですよねぇ。しかも、決して小食というわけではなく、少量をだらだらと食べちゃう意地汚いタイプ(口が卑しいとも言う…)なので、ここで紹介されているような「 咀嚼が太古の意志を取り戻して 」いる状態に、なおさら憧れるんです。あ、以下割愛って言ったのについ引用までして紹介しちゃった(@_@;)   もう、やめます…。