『愛読者―ファンレター』 折原 一

愛読者―ファンレター  折原 一 (文春文庫) ¥650  評価…★★☆☆☆ <作品紹介> 本にサインして送って下さい。写真送りますから、会って下さい――熱狂的読者の要求はエスカレートし、やがて悲劇が……(「覆面作家」)、作家の了解も得ず講演会を企画する図書館司書(「講演会の秘密」)、下手な小説を送りつけ添削せよと迫る作家志望者(「ファンレター」)他、覆面作家・西村香を巡る怪事件の数々。 (『ファンレター』改題) (文庫裏紹介文より) --------------------- うーん、面白かったことは面白かったんですが、余りに低俗に過ぎるような気が…。折原一ってこんなんでしたっけ? そんなに氏の作品を読んでない上に最後に読んだのが随分と昔なので、正当な判断ではないかもしれませんが、私はちょっとどうかと思います。暇つぶしにはいいかなぁ。解説含めて読後感が余りよくないけど。
※以下ネタバレ有り※ 正直なところ本書はちょっと評価しにくいんですよね。あとがきにあるように、この連作が著者の友人で元覆面作家の○村薫氏に対するおふざけ的な気持ちから書かれたのならば、通常の作品として評価しちゃいけないのかなという気もするし。でも、そんな注意書きはどこにもなかったので、やっぱり言うだけ言わせてもらおう。 まぁ、そういう意図だか姿勢だかで書かれた作品であれば、どちらの読者でもない私が前述のような感想を持つのも不思議ではないですよね。内輪ウケみたいなのって部外者には大体気持ちよくはないものですから。良質なパロディであれば原典を知らずに接しても面白かったりしますけど、本書はそういうものではないようだし。まぁ、どちらもファンを多く持つ作家さんなので、内輪ウケを喜んで読む人がたくさんいるから良いのでしょう。それにしても、登場人物も設定も全てが不自然で、トリックも見え見えなのは商業作品としてはどうかと思いますがね。 でも、私がこの作品に不快感を覚えるのは作品の出来云々より、女性読者の描かれ方と扱われ方のせいでしょうね。ほとんどがエキセントリックで、比較的まともな場合はバカ女か悪人で、いずれの場合も若くて美人だと卑劣な男に騙されて体を奪われる(未遂もあり)って、余りにもひどくないですか? 特に不快なのは巻頭の『 覆面作家 』ですね。殆どが非常識なファン・ななみと作家の手紙のやりとりで構成されている作品なのですが、まず、ななみの非常識さに真っ当な一読者として非常に腹が立ちます。(こういう人って結構いるらしいですけどね…) で、それに作家が変な反応をし始めるので、余計に腹立たしく気持ち悪くなります。まともな人間だったら絶対有り得ない話になってくるので、この作家はニセモノだってのはすぐ見当がつくんですが、そのニセモノのやり口がとにかく腹が立つんです。あと、ななみの手紙も相変わらず気持ち悪いし色々とリアリティ無さ過ぎだし。 (例えば、当事者同士の会話をあんな風に手紙に描写しないでしょ。そうしないと物語が成立しないのはわかるけど、不自然なことをしないと成立しない物語は既に破綻してると思う。B級映画じゃないんだからさ) しかも、この連作中で最も卑劣な悪人であるところのニセモノ野郎は、何の罪にも問われず、誰からも非難すらされてないんですよ。ななみの人生は大きく狂ったし、結婚式に乱入された同僚も肉体的精神的に随分なダメージであろうというのに。多分この腹立ちがその後の作品の評価全てに影響しているのだと思います。 『 ミザリー 』もどきの美香(『 二重誘拐 』)には全く同情しないけど、ななみは非常識なだけで何の罪も無い愛読者なのにひどいと思うんです。いや、彼女にも全く感情移入はできないんだけど、本好きの女性が食い物にされるというのに憤りを感じずにはおられないのです。加害者が作家の関係者(この場合は担当編集者)でなければ別にいいんですけどね。まぁ、こういう本を読んで、そんな本気で怒ることもないとは思うのですが…(-"-;) ……と散々文句を言ってますが、そんなところに引っかからずに低俗な作品だと思って読めば、仕掛けや何かは簡単ながらも色々ありますし、面白いことは面白いです。(フォローになってないか?)