『似せ者』 松井 今朝子

似せ者  松井 今朝子 (講談社文庫) ¥680  評価…★★★☆☆ <内容紹介> 京の都で一世を風靡した盟友・坂田藤十郎は宝永6年(1709年)に亡くなった。その翌年、藤十郎に長年仕えていた与市は藤十郎のそっくりさんを二代目として売り出すことを思いつく。藤十郎との血縁関係は全くないが、顔と声がそっくりで芸も物真似の域を超えないながらもよく写し取られている異色の二代目は、業界内外から予想以上の熱狂をもって迎えられた。その成功が揺ぎ無いものとなった頃、与市はもうひとつの目的を果たそうとするが…。(表題作) 他、『 狛犬 』 ( 対照的な容貌と性格をもつ助五郎と広治はまだ若く大した役のつかない役者だ。私生活でも一緒に行動することの多いふたりだったが些細なことをきっかけに助五郎の心境に変化が起こってくる。そして、二人で訪れた助五郎の古い付き合いのお和佐とお菊親子の家で妙な形で爆発してしまい、気まずい状態でいたところに、二人で組んでの芝居の役がまわってくる。それも、助五郎が広治を引き立てる形で。そして…)、 『 鶴亀 』 ( 芝居の興行を取り仕切る「お仕打ち」と呼ばれる仕事をする亀八が、役者時代の師匠だった嵐鶴助という役者に振り回される様を描く )、 『 心残して 』 ( お武家上がりの師匠からを持つ三味線弾きの巳三次と、旗本の次男ながらも「光る声」とも評される美声を持つ故に囃子方をつとめる神尾がふとしたことから淡い交流を持つようになるが、時は幕末の混乱期。武士である神尾は芸も女も捨て、旗本としての務めを果たそうとする。それを止める巳三次だが…)の全4篇を収録。
この方の作品は以前から気にはなっていたけど何となく手を出しそびれていたんですよね。それが、この度の直木賞受賞であちこちの本屋に松井今朝子コーナーができているので、これを機に適当に一冊購入してみました。 で、思いのほか良かったです。本書は「芸人」をテーマに書かれた作品ばかりが収録されていることもあり、粋な感じが全体に漂ってはいるのですが、それとはまた別の「意気」のようなものがそれぞれに描かれていて、全体としてはかなり骨太な感じです。舞台が江戸時代の関西というのも新鮮な感じですね。男女関係もベタベタした感じがなく(これは芸人の世界だからかもしれないけど)、人間関係も何だかすっきりしてて、終わり方も前向きで読後感がさわやかです。若干ユーモアとペーソス(って、いつの時代の人間だ、お前は…)に欠ける憾みはあるけど、変にベタついた「情感あふれる」時代小説よりこういうのの方が今の私にはいいのかもしれません。 ただ、全体的に水準以上だけど、これは!というような作品は本書にはなかったですね。あっさりしたのもあり、感動もしくは感心させるようなのもありというんなら、かなりいい作家さんだと思うのですが、どうなのでしょう? 本書は時代小説というより芸道小説(そんなジャンルはないけど感じはわかりますよね?)という感じの方が強いし、ちょっと特殊なのかもしれませんね。今なら手に入りやすいし他の作品も読んでみようっと。では、続報をお待ち下さい^^;(とか言って書いていないのが山ほどあるような…)