『「狂い」の構造』 春日 武彦・平山 夢明

「狂い」の構造  春日 武彦・平山 夢明 (扶桑社新書) ¥756  評価…★★★★★ <内容紹介> 異常天才小説家・平山夢明と異常心理を探求する精神科医春日武彦。この2人が、伝説的な猟奇殺人事件から引きこもり給食費未払いまで、さまざまな事件やフィクションを題材に、人がまともでなくなる瞬間、狂気へとすべり落ちる場所を語り合う爆笑&戦慄の対論集。あなたは狂わずに読めるか? (扶桑社HPの紹介文より)  第1章~「面倒くさい」が「狂い」のはじまり、 第2章~バルンガ病の人々、 第3章~〝雑〟な狂人たち、 第4章~〝ハイ〟になってしまった人々、第五章~殺す狂人たち の全5章。  
対談本と新書はできるだけ買わないようにしている(前者は何となく損した気がするから。後者はなぜこのサイズにするか理解できないから)のですが、両条件を兼ね備えている本書をやむなく買ってしまいました…。だって、好きな人ふたりが好きなテーマで話してるんだもん。買わないわけにはいかないよねぇ(T_T) でも、買っただけのことはありました!すっごい面白かったです!お二人は旧知の仲らしくて、物凄く気随気儘にお話されてる感じなんですが、その話題とか説明に出されることがいちいちツボで!おそらく「最近の事件をテーマに話してくださいね」とかいう要請があったんだろうなぁとは思うんですが、取り上げられる事件の多くがほんとについ最近の話題の事件や気になる事件で、そういう時事ネタ的な面白さもあるし、マニアならではのネタ(殺人鬼ネタや、過去の変な事件、マニアが好むフィクションやノンフィクション)や現役精神科医の春日氏ならではのメンヘル(と最近では言うのですよね^^;)ネタなどがふんだんに盛り込まれてて、もうお好きな人にはたまらない仕上がりとなっております^^; ただ、ほんとに物凄い情報量なんですね。何しろお二人の知識と情報量が凄い上に頭の回転が速くていらっしゃるので、凄いところから固有名詞や専門用語が出てきちゃう。更に言えば、どちらも相当に独特な感性の持ち主だし。なので、読んでる途中で「これは一体どういう読者層をターゲットにして作られてるんだろう…」と不思議な気持ちになりました。こう言っては何ですが、お二方ともその名前だけで何でも買うっていうファンやそれに類した存在がいるというほどの売れっ子でもないし、分野もどちらも限られてるしねぇ。そもそも、帯に「バルンガ病」って書く時点で終わってないかな?あ、そういえば章題にもなってるな。この担当の人大丈夫ですか?注釈のつけ方も変だし。まぁ、全部に注釈つけてらんないのはわかるが。 (ちなみに「バルンガ」とはウルトラQに出てくる怪獣の一種で一般に風船怪獣と呼ばれています。色んなエネルギーを吸収して膨れ上がっていく謎の生命体です。で、平山氏はその膨らんでいる様にちなんでだか何だかで、自我とかプライドの極端に肥大した人のことを個人的に「バルンガ病」と呼んでるんだそうです。でも、迷惑なのは共通かもしれないが、生命維持のためそうしているバルンガとそういう連中を一緒にするのは個人的には首肯できないなぁ。まぁ、連中もある意味、生命維持のためにそうしているのではあろうが、生き物として正しい姿ではないからな) 同じような喩えでも「パトラッシュ死」はぐっときたけどね。これは注釈つけないでも大抵の日本人はわかるしね^^; 一応、これについて説明しますと、 睡眠薬で死ぬってさ、あれは事実上、ゲロを吐いての窒息だよ」 という春日氏の発言を受けて、平山氏が「えっ、そんな死に方なの。なんか静かにこうやって『ああ……何だろう、眠くなってきちゃったよ、パトラッシュ……』みたいな感じじゃないの?」、 春日 「じゃないよ」、 平山 「パトラッシュ死はできないんだ!睡眠薬では」 ───てな会話があったわけです。バカ受けするとともに大変勉強になりました^^; 確かに『クワイエットルームへようこそ』でも、薬の過剰摂取した主人公は「ゲロでうがいしちゃってるよ」って状況になってるもんなぁ。 その後、 「パトラッシュ死をするにはどうしたらいいんですか?」 「練炭だよ、練炭排気ガスもいいだろうね」 みたいな会話があるのですが、パトラッシュ死をしたい時はやはり凍死に限るのではないでしょうか?実際、本家も凍死なわけですし (正確には飢えと疲労と寒さかな?)。 それに練炭とかガスもゲロ吐きそうなイメージがあるんだが。実際、練炭自殺した現場に嘔吐の跡がとか言うし、自殺サイトとかでそういうアドバイスもあるし。(このあやしい情報の出所はどこだ、私…) あ、でも、凍死も矛盾脱衣 (余りの寒さで脳だか体温調節機能だかがおかしくなり、暑く感じて服を脱いでしまうことがあるんだとか。全裸で雪山で死んでる人とかを見てからの推察だから明確ではないみたいだけど。…というこの私の記述が既にうろ覚えだけど) とかあるから、安らかにパトラッシュ死とはいかないかもしれないけど。 しかし、私は実際にそうなんだけど、精神病理に興味があって入門書とかもそこそこ読んでて、連続殺人鬼が好きで、昭和~現在の猟奇犯罪や奇妙なニュースは大抵チェックしてて、古今東西様々なジャンルの小説も好きで昔の特撮(この場合はまぁウルトラQのみだが)も好き、芸能情報もそこそこチェックしてる…って人が一体どのくらいいるんでしょうか?ほんとに心から疑問に思う。もし、「え、自分もそうだけど」という方がいたら、ぜひお友達になって下さい。いや、マジで。物凄い本気です。ぜひぜひコメント下さい。 って、まぁ、そういう気持ち悪い話はおいといて、そんな私は物凄く面白かったんだけど、そうでない人はどうなのかなぁ?まぁ、精神病理とかに興味がある人はそれなりに面白いかな。ちょっとふざけすぎ感あるけど。そういうのが平気な人がこれに取り上げられてる話題(各種フィクションからの作品名、引用、実在の事件等々)に興味を持って、そこから読書や興味の幅を広げてくれれば素晴らしいですけどね。ああ、でも、それがその人の人生にプラスかどうかは疑問だけど。(連続殺人鬼やホラーや変なニュースに興味がない方が人生は幸せで平穏である気がする(-_-) そんなこんなで個人的には近来稀に見る名著でしたが、人様におすすめできるかどうかはちょっと疑問です。 でも、第1章の「面倒くさい」が「狂い」のはじまりっていうのは非常に実感できるし、耳の痛い人(本読んで「耳」は変だが、他に表現が思いつかない…)も多いのではないかと思います。たとえば、「狂人の部屋はちらかっている」とかね^^; 秩序の基準の違いとかそういうものもあるんでしょうけど、自分をコントロールできてるか否かというところが問題らしい。凄いわかるのが嫌(爆) 実際、平山氏は仕事で煮詰まってて生活も成り立たないくらいの低迷期に春日氏に相談に行ったら、「部屋を掃除しろ」とだけアドバイスされたんだそうです。で、することもないし仕方ないからやるかって徹底的に掃除してピカピカにしたら、その後すぐに道が開けて後はご存知のように恐ろしいほどの上り調子…というわけ。こうして書くと何か新興宗教オソージ教みたいだけど(^^;)、部屋が汚い人には何かわかるよね。 しかし、平山氏はこの時結婚してたはずなんだが奥さんは掃除してなかったのか?亭主に収入がなかったから乳飲み子を抱えて必死で働いてて家事どころじゃなかったとか?うーん、ないとは言い切れないが、トイレ3年掃除しなくて妖怪便所みたいだったってのは、誇張とはいえどうなのかしら?(*_*)  これ、事実じゃなかったりそれなりの事情があったりしたら、奥様にめちゃめちゃ怒られると思うぞ。いや、事実でも怒られるか…。私だったら配偶者がこんなことを公言したら殺す(-_-#)