『殺人小説家』 デイヴィッド・ハンドラー

(2005年8月読了分。感想などは当時のもの) 殺人小説家   デイヴィッド・ハンドラー(講談社文庫)¥940  評価…★★★★☆ <あらすじ> 売れっ子ゴーストライターで本業は作家(処女作は成功、二作目で失敗、現在ようやく書き上げた三作目を持ち込み中)のホーギーのもとに礼儀正しい添え状と共に小説第一章分の原稿が届いた。差出人は不明。だが、その殺人者の告白小説を綴った原稿には明らかに才能があった。 また連絡があるといいがと思っていたホーギーは、翌朝のニュースでその小説と全く同じ殺人事件が起きていたことを知る。そして、次なる事件が起こり、ホーギーのもとへ第二章が届いた。警察が連続殺人犯を捕らえようと躍起になっているのを後目に、ホーギーは自分の気になっていることを調べ始める。 そこへ、とうとう第三章が届く。犯人は一体誰なのか?
知らずにうっかり買ってしまったのですが、これシリーズものなんですね。しかも第8作め!そういうことは帯なりカバーなりにちゃんと明記してくれないと困るなぁ。しかし、独立した作品として読んでも充分面白かったし、シリーズものだとわかってたらきっと買わなかったので今回はまぁ良しとしておこう(^^;) まず、文体がミステリっぽくないんですね。アメリカ青春小説風というか…。主人公・ホーギーの一人称なんですが、描写や会話に妙なウィットなどが散りばめられていて、全体にのんびりした感じ。事件に関係ないホーギーの家庭や何かの話の部分も多いし。これは好き嫌い分かれるところでしょうね。私は、文体についてはさほど気になりませんでしたね。村上春樹とか好きだったし(^^;) 家庭や友人の描写が多いのも今回は物珍しい感じで、まぁクリア。間に入るアンサーマン(犯人)からの手紙に救われた感もあるかな。あのテの犯罪者文体は嫌いじゃないんで。 しかし、とにかくこの作品の優れているところはラストですね。これがなければこんなに高く評価しませんでしたよ。  ※以下ネタバレ有り まさかタンジーが犯人とはねぇ!確かにタトルが犯人じゃあんまりだろうとは思ってたんだよ。話の前半で目をつけられた人が犯人てことは普通ないだろう、と。直接対決の時も明らかに犯人ぽくなかったし、その後も特に新展開あったわけじゃないし。でも、一応犯人でおさまったのか変だなぁと思ってたら最後に大どんでん返し。やるなぁタンジー。 でも、あっさり死んじゃってかわいそう。ホーギーなんかに執着しなきゃ良かったのに。そんないい男じゃないでしょう。でも、彼女は心を病んでしまってたから考えが固着しちゃったんだろうねぇ。才能にあふれて、賢く美しく、行動力もある素晴らしい女性をここまで壊してしまう男の暴力が憎いですね。作中ではこの辺にろくに触れてなかったけどもっとフォローしてほしかった。彼女は異常者だったわけじゃないんだって。 だから、タンジーはあくまでかわいそうな人で怖くはないんです。その罪は確かに恐るべきもので憎むべきではありますが。 一方、長年の親友をあっさり撃ち殺してしまうホーギーの元妻・メリリーは怖い。しかも、至近距離で2発も撃ってんですよ。 「彼女は私の家庭に入り込んだ。私を殺そうとした、私の子供を奪おうとした、私の大切な男性を奪おうとした……。許せなかったの。」 って、おい。状況的には正当防衛ですらないぞ。いくら女は友情より愛情をとるって言っても限度があるだろう。その後、特に悩んでる様子もないし、ほんと怖いよこの女。 そして、そんな女にベタ惚れのホーギーもどうかと思うよ。タンジーにもかなり惚れてたくせにあっさり見捨てやがって。