『笑止~SFバカ本シュール集』 岬 兄悟・大原 まり子 編

笑止 SFバカ本シュール集 岬 兄悟・大原 まり子 編 (小学館文庫)¥620  評価…★★★★☆ <内容紹介> 1996年から出版社を転々としつつ12冊が刊行された伝説のSFアンソロジー「SFバカ本」シリーズ。このシリーズに収録された作品の中からシュールをテーマに厳選し再録した作品集。 『薄皮一枚』(岬 兄悟)、『エステバカ一代』(高瀬 美恵)、『お熱い本はお好き?』(館 淳一)、『かにくい』(佐藤 哲也)、『蛇腹と電気のダンス』(北野 勇作)、『スーパー・リーマン』(大原 まり子)、『ノストラダムス病原体』(梶尾 真治)、『ハッチアウト』(斎藤 綾子)、『片頭痛の恋』(矢崎 存美)の全9篇を収録。
実は再録シリーズの既に3冊目なんですね。こんなの出てたなんて知らなかったー。廣済堂文庫から出てるシリーズをリアルタイムで集めてたんですが当時から既に手に入りにくく、そうこうするうちにレーベル自体がなくなってしまって…(T_T) 見える本棚においてないので確認できないけど多分半分強くらいは持ってるはず。廣済堂ってほんと面白いの出してたんですよねー。異形コレクション第一部(と勝手に呼んでる。光文社版よりこちらの方が好き)とか山田風太郎全集とか必死で集めたものです。ちなみにまだコンプリートできてません(T_T) 本題に戻って、SFバカ本シリーズはその名の通りバカSFのアンソロジー、しかも全作書き下ろしという何とも画期的なものでした。その上、執筆陣はSF畑に限定していないため意外な作家による意外な作品というサプライズの喜びもありました。 (…と書いてて、異形コレクションのコンセプトに酷似していることに今さらながら気づいた。でも、全然雰囲気違うのはジャンルの差というよりは編者とテーマの差でしょうね。こちらはくくりが「バカ」と広い上に格調低いんで、のびのびしてて皆楽しんで書いてるって感じが凄くします。また話がそれたので()つけてみた^^;) で、バカ話というと人はどうしてもシモががってしまうらしく、掲載作品はどっちの下ネタも多く、サプライズゲストは官能系の人が多いです。私にはそこも魅力だったのですが^^; 実は今回、収録作品の過半数を読んでる本書を買ったのも館淳一氏作品が読みたかったからなのです(この方、かなり有名な官能作家ですよね?)。北野勇作作品が未読だったからというのもありましたが。 ※以下ネタバレ有り※ 結論から言うと大正解!館氏の作品は素晴らしかったです!著者紹介にあった通りで本業のエロ部分はさほどでもないですが、SF作品として凄く面白い。しっかりした設定と構成と素晴らしい着想に無意味な冗談(登場人物の名前とか。浅野&吉良はわかるけど何で助六&総角やねん。わかりづらい上に縁起悪いぞ)。感心しました。またどこかで書いてほしいなぁ。私もサクラみたいなビブリオセックスレイブ欲しい^^; で、北野勇作の未読作品がまた当たり。ほぼ全篇が関西弁のOLの一人称で、私が今まで知ってた北野氏とは違う世界でよかった。「新型蛇腹電気箪笥」がハートをわしづかみです。でも、OLに人気という設定なら「カマキリ卵保温箱」はちょっと…^^; しかも、更に拾いものがありました。『かにくい』(佐藤哲也)。氏の作品は多分これが初読。 「ぼく」の風変わりな幼馴染・左端(さたん。悪魔ではなく左翼にちなんだらしい)の幼少時からの変人ぶり(レゴブロックで強制収容所を作り、そんなものを作っちゃいけないと説教する友人の母に「でも、それはここにあるんだよ」と言い、その言葉にたじろぎつつも破壊すれば納得するかと壊して見せた母に対して「でも、これで終わりではないかもしれないんだよ」という小学一年生…というのを「変人」という言葉で片付けていいのかどうか疑問だが)に感心していると、大学生になって再会した左端の変人ぶりに度肝を抜かれます。 「ぼく」は再会を祝って蟹を食いに行こうとの左端の誘いを頑なに断っていたが、とうとう根負けして蟹料理専門店に行ってしまう。そこで蟹のコース料理を食べながら左端は語り始める。自分が変なヤツだったってことはわかってる。理由はわからないが人と違うらしい。でも、色々試行錯誤してどうすればいいかはわかってきたんだ。 「溜まると必ず暴走するんだ。過剰な成分を制御できないんだよ。だからそれを制御するように頑張った。方法かい?原始的だよ。中庸やってると行き場がなくなるからさ、良いと悪いの間をひっきりなしにいったりするんだよ」 左端が何のつもりでこんな話をしているのがわからず困惑する「ぼく」。と、左端の様子がおかしくなり、彼は叫んだ。「だめだ、制御できない。蟹成分が暴走を」。 そして、左端は蟹人間に変身し、さらに蟹成分を摂取して巨大蟹化し、街に出て破壊活動に勤しむ(巨大化の具体的なサイズ表記はないんですが、電柱を倒し車を潰して30ミリ機関砲でしとめられるというから小型の怪獣くらいなのかな)。 …って、そんなのありか!?って感じでしょ。子供の時の変人ぶりが思想的な暗い感じだっただけに意表でバカ受け^^; それ、変人じゃなくて変身ですやん!みたいな。(すんません…) しかも、翌日何事もなかったかのように登校してきている左端。子供の時も水に溶けていなくなった翌日ふつうに登校してたし、この人ほんとに宇宙人かも。銀の弾丸のくだりは余分な気がするけど、変身が現実に起こった証拠として必要だったのかな。 あと、本筋に関係ないけど、「ぼく」が「食べるのに技術を要する=テクニカルな食べ物は嫌い」ということを言ってるのが面白かった。単に「めんどくさくて嫌」なんじゃないわけだ。「食べ終わった後にゴミの山が出来てるのが恥ずかしくて嫌」という気持ちはわからんではないが、思春期の乙女じゃないんだからさ(笑) ちなみに私はテクニカルな食べ物は大抵好きだが、蟹はさほど好きではないですね。多分これは、自分の手と口だけできれいに食べられないのが気に入らないというのが大きいと思う。 その他の作品も既読(しかも何度も読んでる)にも関わらず、やっぱり面白いと思わせてくれるものばかりでした。いやー、やっぱ、いいですわバカSF。心和みます^^;